WEDGE REPORT

2020年5月8日

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 香港における重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験を活かした新型肺炎の対策は、台湾と並び世界トップクラスと言っていい。今回、その香港で新型コロナウイルス感染症対策を主導した香港大学公共衛生学院の福田敬二院長にインタビューした。
(ロイター/アフロ)

 5月5日現在、香港の感染者は1041人で死者は4人。海外から香港に来た人の中での感染は単発的に数人単位で起きているが、香港内での新規の感染者は16日間ゼロとなっている。香港の人口は約750万人で、市町村という地方都市がないため感染症対策はしやすい。しかし、人口密度が高い上、中国本土と陸続きになっているという事実を勘案すると感染拡大を抑えたと評価できる。

ふくだ・けいじ 東京生まれ。幼少期の頃に医師だった父の仕事の関係でアメリカで育つ。バーモント大学で医師の資格を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で公衆衛生の修士号を取得。その後、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)で疫学の専門家としてインフルエンザ局疫学部長を務めたほか、世界保健機関(WHO)の事務局長補などの要職を歴任し、2016年12月から現職。1997年に鳥インフルエンザA(N5N1)が広がった際、CDCのメンバーとして来港したほか、重症急性呼吸器症候群(SARS)の時にも香港を訪れてアドバイスしている。エボラ出血熱などでも手腕を発揮するなど疫学の世界的権威の1人。

 福田院長は「2019年末に武漢で新型肺炎の報告が上がってきた時点で、すでに危機感を持っており、すぐ対策を考え始めました。この危機が香港市民の心に響くことが重要で、どう説明したらいいのかということも政府にアドバイスをしました」と話す。

 日本ではしばしば「医療崩壊」の言葉が飛び交ったが、香港ではそのような言葉は市民の中でもほとんど出てこなかった。だが、「裏側では医療崩壊をさせない事が、会議での重要な議題でした。例えば、マスクが足りなくなるという事が推測されたので、すぐ供給チャネルの確保を行いました。香港の街では確かにマスクの供給不足が起こりましたが、医療現場では十分に数を確保したので、在庫がつくという心配はありませんでした」と話す。

 この初動の速さは、一般市場にマスクが出回ることを早め、感染拡大防止につながり、感染者数の増加が抑えられたことで勤務体制が安定し、さらにマスクが足りなくなるかもしれないという余計なストレスがなくなり、治療に専念できるという好循環を促した。

PCR検査体制を一気に整備

 PCR検査について、日本は国立感染症研究所や地方衛生研究所、保健所などに検査体制が集中したため、負荷がかかって検査数が伸びないことを指摘されているが「香港でも最初は衛生署(Department of Health)と医院管理局(Hospital Authority)でしか検査をできませんでした。そこでまずは大学で検査をできるようにするように政府に要望し、その次には民間の研究所でも行えるようにと、常に拡充を求めてきました。当初、可能だったPCR検査数は正直分からないですが、今は最大で1日あたり6000~8000件、平均して4000~5000件のPCR検査が行われています」と話す。

 厚生労働省の発表した数字でみると、2月18日から4月29日までの72日間におけるPCR検査数は26万6758件であるため、1日平均3705件となる。香港と日本との人口比で考えると、その差は歴然だ。「PCR検査の拡充は、機械の数を増やすだけではく専門の検査員が必要で、簡単に人員を増やせません。何か1つ欠けると検査数は伸ばせないという難しさがあります」

 ここへきて、日本政府はようやく民間での検査を大きく拡充しようとしている。日本の専門家会議は3月初旬から政府に対して検査体制の拡充を求めたとしているが、香港では公的機関だけでは間に合わなくなることを想定し、最初から大学や民間の力を活用しようと考えたことがこの差を生んだと言えよう。

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