そして、リビアの反省を活かし、アサド政権崩壊時にも備えるかのように、ロシア首脳陣は昨年末からシリアの反対派とも接触している。その背景には、アサド政権の崩壊もやむなしと思っている節があることがあろう。具体的には、6月7日に、ロシアのボグダノフ副外相は、シリア問題に関し、「国民が支持すれば」という条件付きながら、「イエメン型の権力移譲」を受け入れる用意があるとの考えを示している。
イエメンでは、昨年、反体制デモが続いていたが、11月に、サレハ大統領の退陣などを柱とする仲介案にサレハ氏本人および野党代表者が署名し、その後実施された選挙で副大統領のハディ氏が暫定大統領に選ばれ、今年2月に権限移譲が実現したという経緯がある。
つまり、ロシアは、アサド政権存続に固執しているのではなく、シリア国民が合意するという条件さえ満たされれば、その結論にロシアは反対しないという立場にまで譲歩してきているのである。
とにかく、ロシアとしては国際的な軍事介入を阻止し、「ロシアに近いシリアの政権」が継続ないし誕生することを目指しているといえる。
米ロの批判合戦
G20でも溝の深さが浮き彫りに
とはいえ、シリア情勢を巡る事態は極めて緊迫している。
米国とNATOの新たな動きが予想される中、ロシアはタルトス港の海軍基地を守るために特殊部隊を派遣したと報じられている。ロシア軍の大型の揚陸艦船「ニコライ・フィルチェンコフ」が6月7日に、黒海に面するウクライナ・セバストポリ港のロシア軍基地で荷物を積み、シリアへ出航したことを米国防総省が突き止めたというのである。
また、そのほかに3隻のロシアの貨物船がシリアに向かっており、攻撃ヘリコプターが輸送されているとも報じられた。こうした報道がある度に、米ロは互いを痛烈に批判し合っている。
こうして、米ロのシリア問題を巡る応戦は激しさを増している。特に、6月18日にメキシコのロスカボスで始まった主要20カ国・地域(G20)首脳会議でも、米国とロシア・中国の溝の深さが浮き彫りになった。
特に、両者の間の「暴力」の解釈の相違は極めて顕著である。米国のオバマ大統領が言うところの「暴力」は、市民を虐殺するアサド政権の行為であるが、プーチン氏は「暴力」に、反体制派の動きも含めているのである。プーチン氏は、この解釈では絶対に譲歩ができない。何故なら、ロシアでも、昨年末以来頻繁に抗議行動が起っている中、シリアの状況は人ごとではなく、この解釈次第で自分の首を絞めることにもなるからである。また、お互いに国内世論にも敏感になっており、譲歩はできない状況だ。
少し歩み寄りを見せるロシア
このように、ロシアと米国の間の溝が拡大する中、ロシアが少しだけ歩み寄りを見せた。