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2020年9月11日

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稲泉 連 (いないずみ・れん)

ノンフィクション作家

早稲田大学第二文学部卒。2005年『ぼくもいくさに征くのだけれど—竹内浩三の詩と死—』(中央公論新社)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に『「本をつくる」という仕事』(筑摩書房)がある。

【山崎直子 (Naoko Yamazaki)】  ​
宇宙飛行士。1970年、千葉県松戸市生まれ。東京大学工学部航空学科卒業。同大学院航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、宇宙開発事業団(現JAXA)に勤務。2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、宇宙へ。15日間の国際宇宙ステーション組立・補給ミッションに参加し、帰還。現在は、内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事等を務める。
(写真=WATARU SATO)

 私がスペースシャトル「ディスカバリー」号で宇宙に行ったのは、今からちょうど10年前の2010年4月のことでした。国際宇宙ステーション(以下、ISS)ではロボットアームを使ったミッションも行い、地球に戻ったのは15日後。目の回るような忙しさでしたが、その最中にISSから見た地球の姿は素晴らしいものでした。

 宇宙から見る地球は、実に様々な表情を見せてくれます。昼間は自然の力強さを感じさせ、まるで地球が一つの生命体のように感じられます。そして、夜になると今度は真っ暗な地上の所々に街の灯りが広がり、人間の生み出した文明の力を実感します。

 何より印象的だったのは、地球を覆う大気の薄さが儚さを感じさせることでした。例えば、日の出のとき、ほんの数秒だけその空気の層が光に照らされ、まだ真っ暗な地球と宇宙の境目が細く浮かび上がる瞬間があるんです。その光景はあまりに儚く、私たちの暮らす地球が、どれだけ微妙なバランスによって成り立っている惑星であるかを実感させられるものがありました。

 私は日ごろから「多くの人が宇宙に行く時代になって欲しい」と話しています。その理由もまた、一人でも多くの人にそんな地球の姿を見てもらいたいからです。宇宙から地球と向き合ったとき、「宇宙船地球号」という言葉が実感として胸に迫ってきました。そして、地球に戻ったとき、空気の美味しさや緑の鮮やかさ、水や土の感触など、これまで当たり前だと思っていたものの一つひとつが、本当にありがたい存在であり、「地球全体が世界遺産」なのだと再認識しました。

 「宇宙を知る」ということはすなわち、「地球を知る」ということです。それと似た感覚を多くの人が持ち、それぞれ表現し、宇宙での体験や知識がより身近になれば、地球がいかに大切にしなければならない存在かが、より実感として理解されていくと思うのです。

 人類が宇宙を目指すのは、そんな地球に生きる生物の一種として、活動領域を広げようとする欲求からかもしれません。活動領域を広げるという戦略は、人類の可能性を押し広げることを意味します。人は、過去そうしてきたように、いずれ宇宙という環境にも適応し、生物としての多様性を増やそうとしているのではないでしょうか。

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