2022年8月14日(日)

WEDGE REPORT

2020年9月11日

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稲泉 連 (いないずみ・れん)

ノンフィクション作家

早稲田大学第二文学部卒。2005年『ぼくもいくさに征くのだけれど—竹内浩三の詩と死—』(中央公論新社)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に『「本をつくる」という仕事』(筑摩書房)がある。

宇宙でのプレゼンス
日本はもっと高められる

 そんななか、宇宙開発の歴史も今、大きな転換期を迎えています。日本も参画する「アルテミス計画」や月における「ゲートウェー構想」などの議論に参加していると、私は何とも言えない感慨を胸に抱きます。

国際宇宙ステーション(ISS)滞在中の山崎氏と、同乗した他国のクルーたち (NASA)

 私が宇宙飛行士になりたいと思ったのは、中学生の頃に「チャレンジャー」の事故(1986年)を見て、亡くなったある女性宇宙飛行士の夢を継ぎたいと感じたからでした。幼少期、宇宙飛行士と言えばSFやアニメの世界の話で、日本人宇宙飛行士はいませんでした。11年間の訓練においても、映画「ライトスタッフ」(83年・米)のような軍出身の人が多かったものです。

 ところが、現在は40カ国近くから宇宙飛行士が輩出され、その背景も教師や研究者など、多様です。民間人の宇宙飛行も開始され、これまでに7人がISSに滞在しています。俳優のトム・クルーズさんがISSで映画を撮影する、といった話を聞いたりすると、宇宙飛行の世界がどんどん身近になっているのを感じます。

 日本人宇宙飛行士も今年中に野口聡一さん、来年には日本人二人目の船長として星出彰彦さんが、スペースXの有人宇宙船「クルードラゴン」でISSに飛び立つ予定です。こうした重要な役割を、日本人宇宙飛行士が担えるようになった。それは本人の努力はもちろんですが、「きぼう」や探査機の「はやぶさ」、補給船「こうのとり」など、日本がこれまでの宇宙開発の中で培ってきた信頼感も背景にあるはずです。

 その意味で、アルテミス計画やゲートウェー構想でも、日本にはアジアで唯一の参加国としてしっかりと存在感を発揮してほしいと思います。計画の中で日本は宇宙ステーションに欠かせないバッテリー機器や生命維持装置を提供しますが、引き続きわが国が誇れる技術を維持・発展させてほしい。まず骨幹となるのは、「こうのとり」で培った補給船の技術のような輸送技術。日本が得意とするメンテナンスの技術もロケットの再使用化という国際的な流れの中で生かせるはずです。

 また、今後の宇宙開発では実際に宇宙ステーションに暮らすための「衣食住」の技術が、より重要になっていきます。そのとき問われるのは日本が培ってきた繊維や材料技術、水のリサイクルなど、「地球で生かせる技術は宇宙でも生かせる」との視点と自信を持つことです。限られた予算の中にあって、国が大きなビジョンを示すことが欠かせません。そうすることで予見性が高まり、宇宙に大きな可能性を感じる企業や人材が増えれば、宇宙分野における日本のプレゼンスはさらに向上していくはずです。

 29年には宇宙航空研究開発機構(JAXA)がトヨタ自動車と開発する与圧ローバーを、月面に送り込む計画があります。宇宙食や遠隔医療、素材開発の技術なども応用できるでしょう。そのように、これまで宇宙ビジネスには関係してこなかった様々な業界や企業が、宇宙での研究やビジネスに参加していくことを期待しています。

Wedge9月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
宇宙が戦場になる日
PART 01         月は尖閣、火星はスカボロー礁  国際宇宙秩序狙う中国の野望
PART 02         遠のく米中の背中  ロシアの生き残り戦略   
CHRONOLOGY  新たな文明を切り拓くカギ  各国の宇宙開発競争の歴史と未来  
PART 03         盛り上がる宇宙ビジネス  日本企業はチャンスをつかめ    
COLUMN         地上と同様、宇宙空間でも衛星を狙うサイバー攻撃
INTERVIEW      「宇宙」を知ることで「地球」を知る   山崎直子(宇宙飛行士) 
PART 04         守るべき宇宙の平和  日本と米国はもっと協力できる 

  
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◆Wedge2020年9月号より

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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