Wedge REPORT

2020年8月21日

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 これまで官需中心だった宇宙事業において、民需が急速に盛り上がりつつある。複数の小型人工衛星を運用して一体のシステムとして利用する「メガ・コンステレーション」時代が到来しているからだ。例えば、イーロン・マスク氏が率いる米スペースXは2020年半ばまでに1.2万基もの人工衛星を打ち上げて、衛星インターネット網を構築しようとしている。

 そんな中「九州から世界に誇る宇宙産業を創出する」という目標を掲げ、昨年12月に民間企業として世界で3番目に「小型SAR(合成開口レーダー)衛星」を打ち上げたのが、九州・パイオニアズ・オブ・スペースこと、QPS研究所だ(福岡市中央区)。

QPS研究所が開発した小型SAR衛星「イザナギ」

 2005年、九州大学名誉教授の八坂哲雄氏、桜井晃氏、三菱重工のロケット開発者である船越国弘氏が九州に宇宙産業を根付かせたいという思いから立ち上げた。産業化に向けて大きく踏み出したのは、2014年に大西俊輔氏(34)が社長に就任してからだ。大西氏は九州大学大学院の工学府航空宇宙工学専攻の院生だった2008年から14年まで九州大学が主導となりQPS研究所始め九州域の大学や地元企業が開発を行った「QSAT-EOSプロジェクト」に、プロジェクトリーダーとして衛星開発を行い、打ち上げを指揮した経験を持つ。博士課程修了と同時に入社し、半年後に社長に就任した。

大西俊輔氏

 「孫世代である自分が、夢を受け継ぎたいと思ったのです」と、会社を率いることにした大西氏が「先行するライバルが少ない」として、事業化する対象として選んだのが「小型のSAR衛星」だった。SARは合成開口と言われるレーダーで、いわゆる光学衛星と違い、夜間や雲天でも、レーダーが出す電波の反射を観測し処理することで地上の動きや変化を観測することができる。災害が起きた際の被害状況、ダムなどのインフラの定点観測、農業などの経済活動における活用が期待されている。

 昨年12月に初号機「イザナギ」を打ち上げ、今年12月には2号機「イザナミ」の打ち上げを予定している。2025年までに合計36機の小型SAR衛星を打ち上げる計画で、世界中ほぼどこでも平均10分間隔で観測することができる体制を整える。

 1、2号機は大型ロケットに相乗りする形で打ち上げたが、世界中で新型小型ロケットの開発が進んでおり、今後は独自に衛星を打ち上げることも計画している。

 QPS研究所が開発したSAR衛星は、従来の重量数トンにもなるものに比べて、重量で約20分の1、コストは約100分の1、そして1メートルの分解能(自動車が判別できる大きさ)を持つ。類を見ない小型衛星が誕生するカギとなったのが、大西氏の師匠である八坂氏と、北部九州一円のモノづくり企業だった。

 八坂氏はかつて日本初の通信衛星「さくら」において、軽量アンテナを設計製作した経験を持っており、その知見があったからこそ「大きなアンテナをコンパクトかつキレイに畳むというアイデアが生まれた」(大西氏)。それを地元のモノづくり企業が形にした。

 地元企業が参画することの良さについて大西氏はこう指摘する。「最も大きいのは、〝自分たちで作っているというプライド〟を持っていただけることだと思います。より良くするためにはどうすればいいか議論が活発に行われ、気持ちの入れ方が違います」。下請け仕事として、仕様通りに仕上げれば良いという感覚ではなく、「九州に宇宙産業を根付かせる」というQPS研究所の思いに地元モノづくり企業も共感し、自分事として仕事に取り組んでいるということだ。

 コロナ禍によって改めてサプライチェーンのあり方が再考されている。これまで資本の論理で海外に生産拠点を移すことが一般的だったが、パンデミックのような災害が起きてしまえば、グローバルなサプライチェーンを維持することは容易ではない。もちろんグローバル化は避けられないが、国内のサプライヤーの育成、維持についても考えていかなければならないなかで、QPS研究所の取り組みは一つの参考になる。

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