5月30日(現地時間)、米・スペースXの有人宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げが成功し、31日には宇宙ステーションへのドッキングを完了させた。YouTubeなどで、打ち上げからドッキングまでの一部始終を見ることができるが、タッチパネルが設置されたクルードラゴンの船内や、途中で宇宙飛行士の二人が宇宙服からポロシャツにチノパン着替えた様子を見ると、宇宙への移動の敷居が下がっているように感じられた。
宇宙産業はこれまで「官需」が大きく占めていたが、小型衛星による宇宙からのセンシングなど利用需要の増加と、そのための小型ロケットの打ち上げコストが下がっていることが両輪となって、民間の宇宙関連ビジネスは今まさに黎明期にある。宇宙航空研究開発機構(JAXA) 新事業促進部長の岩本裕之氏に、その動向を聞いた。
新事業促進部は、JAXAが持つ宇宙技術と民間企業が持つビジネスアイデアを掛け合わせることで、新しい宇宙ビジネスを生み出すことを目的に「J-SPARC(JAXA Space Innovation through and Co-creation)」というイノベーション創出プログラムを2018年に開始した。
宇宙ビジネスが盛り上がる理由の一つに「衛星の打ち上げラッシュ」がある。昨年、米・アマゾンが通信サービス向けに3000基、スペースXは同じく通信用に1万基を超える衛星を打ち上げるという(『Amazon joins SpaceX, OneWeb and Facebook in the race to create space-based internet services』Techcrunch)。
米国の2社だけでこれだけの打ち上げが計画されているなかに、世界各国の衛星打ち上げも加わる。
ただし、こうした中で問題となるのが「スペース・デブリ(宇宙ゴミ)」だ。2007年に中国がミサイルによって人工衛星を破壊したことによって大量のデブリが発生して国際的に非難されることがあったが、これまでの宇宙利用などによって発生したデブリが、運用中の衛星に衝突するなどといったリスクが高まっているのだ。
「小型衛星は寿命も短いので、打ち上げが増える分、使い終わった衛星をどのように処分するのか? ということが問題になります。そのため、使用済みの衛星を大気圏に誘導して燃やすなどする必要があります。使用済みの衛星を軌道上に放置するなどしてしまえば、当然、非難を浴びることになります。そこでビジネスチャンスとなるのがデブリの処理です。『J-SPARC』でも、「アストロスケール社」、「ALE社」、「川崎重工業」といった会社とデブリ対策関連の共創活動に取り組みました」
SAR(サー・合成開口レーダー)衛星
次に注目されるのが、「SAR(サー・合成開口レーダー)衛星」だ。光学カメラのように実際の映像をとらえるのではなく、マイクロ波を通じて地球上の高低差、物体ある、なしを観測する。マイクロ波のため、曇も通過し、夜間でも観測が可能という特徴がある。
「SAR衛星は定点観測、例えばダムなどのインフラの観測や、自然災害が起きた際にどこに変化があったかを発見することに役立ちます。また、火山活動を観測することで噴火の予兆をとらえることも可能です。そのほか、河川の堤防を観測したり、農業で作物の生育状況など、様々な利用シーンが期待されています。小型SAR衛星は、JAXAが運用する1基数百億円する大型のものに比べて、低コストでの開発が可能となります。これによって複数の衛星を打ち上げることが可能になり、『時間分解能』を高めることができます。つまり、衛星は地球を周回しているので1基が一つの場所を観測する時間は限られますが、衛星の数を増やせば観測時間を増やすことができます。
SAR衛星に関しては、福岡のQPS(Q-shu Pioneers of Space)研究所、シンスペクティブ社がJ-SPARCのプログラムに参加しています。シンスペクティブ社は100億円超の資金調達にも成功していて、この分野での期待の高さがうかがえます」