感染者442人、死者7人(5月31日現在)――。コロナ禍に対して、〝神対応〟をとも言える危機管理能力を発揮した台湾。人口が約2400万人と、日本の約5分の1とはいえ、同時期に日本で感染者1・7万人、死者900人が出ていたことを考えると、台湾の数字がいかに驚異的かが分かる。
台湾で何かが起きていたのか? 世界を驚かせた〝台湾モデル〟を徹底解剖した『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)を7月2日に緊急出版したジャーナリストで大東文化大学特任教授の野嶋剛氏に話を聞いた。
新書とはいえ270ページに及ぶボリュームでの仕上がりは驚異的。野嶋さんは出版の動機についてこう語る。
「2カ月で仕上げました。その間は、僕にとっても賭けでした。台湾に学ぶといっても、執筆中に予期せぬ大変化が台湾で起きる可能性もあります。一方で、〝台湾屋〟としての使命感もありました(野嶋さんは朝日新聞記者時代に台北支局長を務めた)。
一連のコロナ報道で、台湾の対応策について多くの報道が見られましたが、断片的な情報も目立ちました。台湾の情報がこれだけ継続的かつ大量に取り上げられたのは、戦後初めてと言っても過言ではありません。台湾のコロナ対策を横軸、政治・歴史・社会を縦軸にして読み解いていく。これを書くのは今しかないという思いで書きました」
〝台湾モデル〟に地団駄を踏んだ中国
その〝台湾モデル〟を苦々しく見ているのが中国だ。
「台湾の活躍を目障りだと思っているでしょう。流行発生地でありながら、『完璧な対応をした』と自画自賛しているように〝中国モデル〟として世界にアピールして国際的地位をアップさせることが中国の狙いでした。ところが〝台湾モデル〟のほうが世界的に評価されてしまった。中国が力で封じ込めたのに対して、台湾は民主的に対応したからです。これは中国の宣伝工作とって大きなダメージとなりました。むしろ、台湾の民主的な対応が、中国の強権的な姿勢を目立たせる格好になりました。
アメリカが自らの対応に失敗していることもあって、民主主義の価値を語りづらい状況にあるなかで、台湾の成功を活用
具体的に台湾の対策を見ていくと、まずポイントとなるのが「水際対策」だ。
「台湾は、日本以上に中国への経済依存が大きいですが、1月の後半には武漢のある湖南省からの入国を禁止し、中国からの入国も早期に全面的に閉じました。感染症の蔓延を最優先の国家リスクとしてとらえ、まずは封じ込めることを選んだのです」
野嶋氏が「感動的ですらある初動の動き」と指摘するように、12月31日の午前3時に「原因不明の肺炎治療状況に関する武漢市衛生健康委員会の緊急通知」という文書がネットに上がったことをキャッチし、即日、武漢からの入国者を全員検査する措置をとった。
「台湾は、基本的に中国を信用していません。過去を振り返れば、近年、流行する感染症の発生源は中国であることが多く、関係性が深いだけに台湾はその脅威にさらされてきた一方で、中国はなかなか本当の情報を出しません。だからこそ、『感染症探偵』とも呼ばれるような人たちが、中国の情報発信をウォッチしているのです」
中国によってフィルターがかけられた情報を台湾が外してくれているわけで、世界的にも有用だ。