オトナの教養 週末の一冊

2020年7月9日

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WHOを自らのプロパガンダに組み込んだ中国

「日本は中国の情報をWHO経由で得ていたとみられます。日本がコロナ問題で全体に対応が遅れ気味になったのは、流行初期の1月の段階で、WHOの情報を鵜呑みにしたことが原因の一つだと考えられます。中国は、事態の展開がどうなるかわからなかった1月下旬まではウイルスの深刻さを抑えて伝える情報を中心に対外発信をしていましたが、コロナ対策の態勢が整った2月以降は比較的現実に近い形に変えました。残念ながら、そこでWHOも世界もミスリードされてしまいましたが、台湾はそうはならなかった。台湾に比べると、日本の中国情報への分析はナイーブだったと言わざるを得ません」

 本書では中国がいかにしてWHOに食い込んだのかも追っている。

「2003年にSARSが流行した際、中国が積極的な情報発信をしなかったことでWHOとの関係は緊迫したものとなりました。これにより中国の国際的な評判を落としました。中国がしたたかなのは、国内では、情報公開や感染症対策を強化するシステムを作り上げていく一方で、国際社会においては『WHOをコントロールすることで、自分たちを守ることができる』と考えたのです。WHOを自らの国際戦略やプロパガンダの一部に組み込むという発想です。

 最初にその動きがあらわになったのが、2008年のWHO事務局長選でのことです。常任理事国は、国連専門機関では事務局長を出さないという不文律がありましたので、影響力を及ぼしやすい人材として香港出身のマーガレット・チャン氏を立てました。この時の事務局長選で敗れたのが、日本の尾身茂氏です。これ以降の十数年、チャン氏とその後任であるテドロス現事務局長を含め、WHOは中国と密接な関係にある。アメリカがWHOを脱退したことで世界に衝撃が走りましたが、多くの国がWHOへの不信感を高めていることも事実です」

 台湾の水際対策で驚かされるのが、感染の疑いのある人への徹底した対応だ。2月にダイヤモンドプリンセス号から乗客が降ろされたとき、日本では公共交通機関で帰宅するという措置がとられた。

「台湾では、帰国する飛行機のなかでトイレにも行ってはならない。そのためにオムツを用意するという措置までとりました。日本人からすればやりすぎという感じがしますが、それでも『小さな人権を優先してしまえば、より大きな人権が損なわれる』という認識が台湾政府にはあったのだと思います。台湾は感染したかどうかグレーの人も含めて、徹底して隔離しました。その結果、ロックダウンをすることもなく、大半の店舗も通常営業を続けることができました」

 ロックダウンをしてしまえば、経済がストップして、多くの人が失業することになる。初動において、「やりすぎでは?」と思えるような強い行動に出ることで、結果として小さなマイナス(国民への負担)で収めることができる。

「外国の事例を参考にするときには、議論のレベルの違いを知っておく必要があります。例えば、台湾は1次レベル(水際)、韓国は2次レベル(限られたクラスターの発生)、日本3次レベル(複数のクラスター+感染経路不明者の増加)。置かれた状況がことなるので、対応策も違ってきます。ただし、1次である『水際』においては、どの国もやることは同じなのです。台湾はそこでしっかり行動したので、その後の対応もかなり楽になりました」

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