このままでは日本の製造業は厳しい。経営コンサルタントとしては異色の『小説 第4次産業革命 日本の製造業を救え!』(日経BP)を上梓(じょうし)し、日本の製造業が直面する危機と適応戦略を示した、野村総合研究所の藤野直明氏と梶野真弘氏に、製造業に求められるDX(デジタルトランスフォーメーション)について聞いた。
聞き手・編集部(友森敏雄)
編集部(以下─) 世界の製造業では統合基幹業務システム(ERP=会計、人事、生産、流通、販売情報を統合して一元化するシステム)、サイバーフィジカルシステム(CPS)など「クラウド型のソフトウエアアプリケーション」を活用しながらDXを進め、生産プロセスの見える化などを行っています。
一方、日本の製造業では生産プロセス・ノウハウが熟練者の「暗黙知」のままで「形式知」化されておらず、工場の立ち上げや、納期・見積もりの回答にも時間がかかると指摘されています。これらの課題克服に必要なのがDXですが、コロナ禍が転機となるのでしょうか。
梶野 コロナ禍の影響によって多くの会社が、工場の国内回帰や再配置、あるいは地産地消といったサプライチェーンの見直しを検討しています。しかし、日本の製造業では、同じ会社の工場であっても形式知化、組織知化ができていないことも珍しくありません。もっとも最近、工場移転をスムーズに進めるために、DXが有効だと気が付きはじめた企業は増えてきているようです。
造製業における
サービス化とは何か?
藤野 DXの短期的変革(目標)は、このような業務の形式知化、組織知化、システム化にあります。DXによって、日本の製造業の悩みである技術継承、M&Aの後の統合プロセス、さらに工場の移管、再立ち上げなどの事業のダイナミックケイパビリティ(適応力)の確保が迅速に可能となります。逆に、DXは即効性のあるコスト削減策では必ずしもないのです。
一方、長期的な変革の1つに、製造業の「サービタイゼーション」があります。これは製品事業をリース契約で、サブスクリプション型で提供するということではありません。製品を販売するだけではなく、製造業のエンジニアリング力全て、企画開発、設計、生産技術、生産準備、製造、運用、保守、廃棄までの製品ライフサイクル全てにわたってサービス事業化していこうというコンセプトです。
また、製造エンジニアリング力そのものをソフトウエアで「ブラックボックス化」して、サービスとして提供するということをも含む概念です。これによって、今、世界の製造業の競争環境が激変しています。
── DXが進まない原因はどこにあるのでしょうか。
藤野 まず、日本企業のDX解釈は「AIやIoT、デジタルツインなどの先端技術を活用して、〝何か〟を行うこと」と誤解されているようです。それが「何か」は、現場で考えろ、という指示が出されることが多いようです。しかしながら、DXは経営戦略としてとらえることが重要です。DXはいわゆる「カイゼン」の手段の1つとして重要なのではなく、ビジネスモデル革新、企業の境界が変わる経営戦略として重要だということです。
日本企業の「カイゼン」文化は非常に素晴らしい。しかし、逆に、「カイゼン」をやっていればそれで経営として十分かというと、それは誰も保証してくれてはいないのです。失敗のない、リスクの小さいカイゼンの積み重ねが成功体験として染みついており、逆にリスクを伴う抜本的な業務変革に対しては、経営陣が躊躇(ちゅうちょ)するとすれば、これは大きな問題かもしれません。