「下村先生なんておかしいよ、梅ちゃん先生でいいよ」
近所で食堂を開いている三上康子(岩崎ひろみ)がいう。
東京・蒲田で開業したばかりの下村梅子(堀北真希)が前夜、食中毒にかかった5人の工員を救った。そのお礼に現れた同僚が、「下村先生」と呼びかけた瞬間であった。
徹夜に近かったその治療の疲れから、机に突っ伏している梅子を母親の芳子(南果歩)が揺り動かす。
「患者さんですよ、梅ちゃん先生」
朝ドラが描く女性の成長と
戦後の混乱、経済成長
NHK朝の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」のなかで、主演の堀北真希が初めてタイトルの名前で呼ばれたシーンであった。
第15週(7月9日~14日)「ちいさな嘘(うそ)の、おおきな本当」を観た。
シリーズは、終戦直前に蒲田が空襲に遭って焼け野原になったシーンから始まる。女学校に通う梅子が、浮浪児を助けたことをきっかけとして、医学部の教授である父建造(高橋克実)に当初は反対されながらも、女医の道を目指していく。
朝の連続小説ではおなじみの女性の成長の物語である。戦後の混乱とその後の経済成長のなかで日本人がどのように歩んできたか。これも連続小説の大きなテーマである。
若手女優の登竜門
「ちいさな嘘(うそ)の、おおきな本当」は、梅子に思いを寄せる、父建造の教室に所属している研究医の松岡敏夫(高橋光臣)の揺れる気持ちが縦糸になっている。そして、隣家の部品製作所の工員の退社騒動がからみあう。本当の気持ちをなかなか率直に表現できない、青春時代に特有の甘い香りのする感情劇である。
梅子と結婚することになる松岡役の高橋の演技が、連続ドラマを観る楽しみになる。理知的過ぎて、恋愛感情を表現する方法を知らない。青森の素封家の娘との縁談を断って、大学の研究室に戻って、梅子と再会しても、うまく気持ちをだせない。突然、梅子が胸に飛び込んできて、ぎこちなく肩を抱く。