世界の記述

2020年9月14日

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 新型コロナウイルスは国の現実を露わにする。強硬な中国がうまく鎮めた一方、自由の象徴でもある米国は、トランプ大統領が最悪の場合を予測した数字の倍近い死者19万人を超えた。個人の自由より強硬策が疫病に有効ーーと早合点しそうだが、強権国家ベネズエラではひどいことが起きている。

cbies / iStock / Getty Images Plus

 中南米カリブ圏は1980年代以降、国際通貨基金(IMF)や世界銀行の融資条件として福祉を削り込む新自由主義が推し進められた。その結果、格差は広がり、その反動から公平な社会を唱える左派政治家が現れては消えを繰り返してきた。そんな中、ベネズエラは2000年代、左翼政治家、チャベス前大統領の登場で極端に振れ、バラマキ政策が国の富を使い果たし、原油依存の社会をガタガタにさせた。

 チャベス氏が13年に病死し後を継いだイエスマン、マドゥロ現大統領の独裁ぶり、無能さはチャベスよりもひどく、国会停止、野党弾圧で国政は動かず、経済制裁で国際社会からもほぼ完全に孤立した。

 生産を下げながらも外貨の9割以上をどうにか稼いできた原油はコロナ禍で1920年代以来の安値となり、英エコノミスト誌によると、今年末の国の経済規模はマドゥロ政権誕生時の5分の1にまで縮む。

 コロナによる死者を政府は9月9日時点で452人と公表しているが、検査体制が整っていないため、実数ははるかに多い。カラカス在住者によると、医療機関はどこも満杯状態で、床で寝起きしている患者も多いそうだ。

 ベネズエラの医療はコロナ前から崩壊寸前で、食料も枯渇したため、人口3000万の推定3割以上が国外へ逃れている。そんな「ベネズエラ難民」はコロナ禍で失職し、しぶしぶ周辺国から母国に戻ると「帰国者イコール感染者」とみなされ、即座に拘束され「バイオテロリスト」呼ばわりされ、廃校などの施設で監禁されている。

 このため、国民の多くは感染の兆しがあっても、医療機関に相談にも行けない状態になっているという声もある。

 そんな中、政府は8月末、2013年以来収監してきた野党議員ら約110人に恩赦を与える「緩和策」を打ち出した。12月の国会議員選挙を前に議員らに選挙参加を呼びかけるためという見方もあるが、海外に穏健ぶりを見せるのが狙いのようだ。

 米政府がこの8月、18年大統領選のマドゥロ再選の不正を糾弾してきたグアイド国会議長に対し、制裁下での凍結資産数百万ドル(数億円)の利用を認めたためだ。

 国庫が底をつくマドゥロ政権は穏健さを演じ、他の政府資産の凍結解除を目論んでいる可能性が高い。

 ベネズエラの民間調査会社ダタナリシスによるとマドゥロ大統領の支持率は13%で、グアイド議長は19年初めには61%だったが、8月時点では26%にまで落ち込んでいる。政治家への支持の低さは、わずが10年で職も貯蓄も失い、完全に転落させられた国民の深い政治不信の表れだ。

  
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