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2020年5月25日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 やや旧聞に属するが、コロナ関連ニュースがあふれていた5月8日、南米ベネズエラ、米ワシントン発の記事によると、ベネズエラで政権打倒をめざすアメリカ人を含むグループが摘発された。米CIA(中央情報局)の存在が背後に窺えることもあって、政権側はトランプ大統領らを強く非難してるが、アメリカ側は一切関与を否定、真相はなお藪の中だ。

 CIAはかつて、反米政権の転覆など世界各地で跳梁した〝最強の情報機関〟。最近でこそ、〝地盤沈下〟が指摘されているが、今回の事件は、その全盛期を彷彿とさせた。

(JANIFEST/gettyimages)

大統領拉致を計画

 産経新聞などの報道によると、5月3日未明、ベネズエラ北部の海岸から数百人にものぼる武装集団が密入国を試みたが治安当局が撃退、8人を殺害して17人を拘束、武器などを押収した。逮捕者の中に米国人が2人含まれ、そのうちの1人、34歳の元米海兵隊員が国営テレビの取材に答え、「首都カラカス近くの国際空港を制圧してマドゥロ大統領を米国に連行する計画だった」と証言した。

 米国人2人は米フロリダ州の民間警備会社と契約、1月からコロンビア北部、ベネズエラとの国境地帯で60~70人のベネズエラ人を訓練していたという。この警備会社は、以前米陸軍特殊部隊グリーンベレーに所属し、アフガニスタンやイラクで戦功をたてた人物が経営している。

 事件直後、トランプ大統領はテレビのインタビューに答え、「何も知らない。もしわれわれがベネズエラに何か行動を起こすとすれば、別な形になる。侵攻だ」と述べて否定しながら、逆に反米のマドゥロ政権を恫喝した。ポンぺオ国務長官も「捕らえられている米国人を帰国させるためにあらゆる手段をとる」と強い姿勢を見せた。

 ベネズエラでは、2019年初め反米のマドゥロ政権に反対するデモが頻発して政情が不安定化した。1月末、親米のクアイド国会議長が大統領就任を宣言し、マドゥロ氏側との対立が続いていた。

 マドゥロ大統領は2020年3月、麻薬密輸、テロなどの罪で米司法省から起訴されている。大統領を米国に連行しようとしたのは、裁判にかけることが目的だった可能性がある。

 前任者でやはり反米左派だったチャベス大統領が2002年に、軍のクーデターで政権を追われかけた時、背後で糸を引いていたのがCIAといわれることもあって、今回も米の情報機関の主導によるーと強く主張している。

 これまでのところ、CIAの関与を示す具体的な証拠はみつかっていないが、米国内でも、体制転覆という企てが、その典型的な行動パターンであることを指摘、関与を強く疑う向きも少なくない。

カストロ暗殺計画

 CIAは、冷戦時代を中心に、成否を問わず、違法行為を含めていかなる手段をも弄して、米国にたてつく政権、勢力の排除に暗躍してきた。CIAがかかわったといわれる暗殺、クーデター、破壊行為は枚挙にいとまがない。
 
 CIAの暗躍で、まっさきに思い出すのは1961年のキューバ・ピッグス湾侵攻事件だろう。失敗に終わったものの、62年のキューバ・ミサイル危機の序曲ともいわれる事件だ。

 1959年のキューバ革命で登場したカストロ左派政権を強く警戒していたアメリカのケネディ政権は61年4月、キューバ国内の反体制活動へのテコ入れ、カストロ暗殺計画支援などCIAによる謀略に承認を与えた。

 CIAは、米国に亡命していた反カストロのキューバ人部隊1500人を首都ハバナ南東のピッグス湾から上陸侵攻させようとしたが、ソ連(当時)の支援を受けたキューバ軍の反撃にあい、100人以上が殺害され、1000人以上が捕虜となって完全な失敗に終わった。

 ケネディ政権は国際的な非難を浴び、キューバはこれを機にソ連への傾斜を強めた。ソ連との秘密軍事協定によって核ミサイルを受け入れ、配備。翌62年10月、これを察知した米軍が核搬入阻止に乗り出し、米ソが対峙、「あわや核戦争か」というキューバ危機に発展した。

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