世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月17日

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 3月27日、トランプ政権は、ベネズエラのマドゥーロ大統領と十数人の政治・軍事指導者をマネーロンダリングやナルコテロリズム関連の贈収賄等の罪で訴追したことを公表し、マドゥーロが米国人の健康と福祉を損なうためにコカインを米国に蔓延させようとした、と非難した。

Oleksii Liskonih/iStock / Getty Images Plus

 これについて、独立研究機関Washington Office on Latin Americaのラムゼー所長は、3月28日付けのワシントン・ポスト紙掲載の論説By indicting Maduro, Trump is kneecapping a transition in Venezuela’で、マドゥーロと野党側との交渉による政権移行を不可能にするものであるとして、米政権の戦略的思考の欠如を批判、マドゥーロ政権の中に分断を生み出すための種々の失敗した試みの中の最新のものだと酷評している。ラムゼーは、「今回の動きはマドゥーロが交渉に応ずるように政権内部での圧力を高める努力を助長するのではなく、むしろ妨げることになる。このような圧力をかける可能性のある3人の影の実力者であるパドリーノ国防相、モレノ最高裁判事、カベロ社会党党首が訴追された人物の中にも含まれているが、これは、彼らとマドゥーロとの間に楔を打ち込むことをあからさまに模索してきた米国のこれまでの戦略とは大きく異なるものだ」と述べている。

 今般の刑事訴追は、フロリダ州のヒスパニック票を意識したトランプの選挙対策であろう。2月の一般教書演説にグアイド(反マドゥーロ派の指導者)をサプライズ・ゲストとして招き、演説の中で、グアイドを称え、マドゥーロを非難したパフォーマンスの延長でもある。また、今回の措置は、イランに対するのと同様の「最大限の圧力」戦略の一環とされている。最大限の圧力とは、軍事行動はとれず、外交交渉も行わない状況で圧力となりえることは何でもやるという程度の意味で、戦略と言えるものではなかろう。

 新型コロナウイルスについては、ベネズエラでも多数の感染者が出ている。マドゥーロは、3月12日に緊急事態宣言を出して集会等を禁止し、16日からは軍が出動して国境管理及び首都圏を封鎖しており、反マドゥーロの抗議活動も止まっている状態である。また、帝国主義の手先と非難していたIMFに50億ドルの支援要請を行ったが、政権の正統性に疑義があるとして拒否されている。

 このようなタイミングでもあるので、マドゥーロと野党の交渉による事態打開を目指すのであればコロナ対策支援を名目に歩み寄りを促すこともありえたと思われるが、他方、マドゥーロが交渉に応ずることを装いながら種々の策を講じ権力の維持を図ろうとしていることも明らかである。ただ、交渉を始めれば何らかの手がかりや可能性が出てくることもあろう。

 米州機構(OAS)の事務局長選挙が3月20日に行われ、親米派のアルマグロが再選された。しかし、投票参加33か国中10か国が反対し、地域の分断の現実が改めて認識されたとも言える。従って、ベネズエラ問題についてOASが交渉促進に何らかの役割を果たすことも期待できない。

 いずれにせよ、今後12月までに行われるべき国民議会選挙に向けての駆け引きが行われるが、分裂や弱体化の危険があるのはむしろグアイドらの反政府側である。トランプ政権には、リマ・グループ(マドゥーロに批判的な米州諸国のグループ)やEUと協力してグアイド側の体制を強化し、まともな交渉が行われるための環境作りのための具体的策が必要である。

  
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