2025年3月19日(水)

BBC News

2025年3月18日

英国王チャールズ3世とカナダのマーク・カーニー新首相(17日、バッキンガム宮殿)

ショーン・コクラン王室担当編集委員

カナダのマーク・カーニー新首相が17日、ロンドンのバッキンガム宮殿を訪れ、チャールズ英国王に温かく迎え入れられた。

アメリカのドナルド・トランプ大統領がカナダを脅しているなか、赤いネクタイ姿のチャールズ国王による出迎えは、言葉ではなく振る舞いで遠回しにカナダへの支持を象徴的に示すものだった。

だが、国王はカナダへのコミットメントを明確にしようとしている。BBCが得た情報によれば、国王は昨年、がんの診断がなければ、カナダを訪問する予定だった。

またカナダで総選挙が終われば、同国訪問が国王の優先事項となり、そこでさらに支持を示すとの見方もある。

カーニー新首相はチャールズ国王に、今朝、カナダ勲章のピンが壊れたことを伝えた。チャールズ国王は、「もう一つ欲しいですか?」と冗談を言った。

「話すべきことがたくさんある」と言いながら、チャールズ国王はカーニー氏を席へと案内した。壊れたピンが、コモンウェルス(英連邦)の緊張関係を暗示するものではないことを願っていたのかもしれない。

「重要な問題だ」とチャールズ国王は述べ、30分の会談が始まった。この会談には、他の誰も同席していなかった。

カーニー氏はその後、ダウニング街(首相官邸)でサー・キア・スターマー英首相と会談した。

スターマー首相は両国の関係を称賛し、「多くの共通点がある。共通の歴史、共通の価値観、共通の国王だ」と述べた。

カーニー氏は、スターマー氏やフランスのエマニュエル・マクロン大統領による「歓迎と建設的な議論」に感謝していると述べた。マクロン大統領とはこの日、会談していた。

記者会見では、トランプ大統領のカナダとの貿易戦争や、カナダをアメリカ合衆国の51番目の州にするという発言をめぐり、他の同盟国が公にカナダを支持していないことに失望しているかという質問が飛んだ。

これに対しカーニー氏は、「我々は他国に主権を認めてもらう必要はない。我々は主権国家であり、他国からの称賛を必要としない。我々は自分自身に誇りを持っている」と述べた。

また、スターマー氏が、カナダの主権と「我々の共通の国王であるチャールズ3世」に言及したことを強調した。

象徴的メッセージ

イギリスとカナダの両国の国家元首であるチャールズ国王にとって、カーニー氏との会談は、複雑な外交的バランスを取らなければいけない場面だった。

国王は、イギリスとトランプ大統領との関係を損なうことなく、カナダとの連帯を示さなければならない。

また、政治に直接関与することを避けなければならず、閣僚の助言に基づいて発言する必要がある。トランプ氏のカナダ併合発言について、国王が個人的にどう思っているかにかかわらず、その考えを公にすることはできない。

こうした複雑な振り付けに加えて、英王室そのものが、イギリスがトランプ大統領に対して使える最も強力なカードの一つとなっているということがある。トランプ大統領は、チャールズ国王からの2度目の公式訪問の招待に喜んでいるようだった。

そのため、国王からのメッセージは象徴的なかたちで示される。見逃した人がいたとしても、カナダに関するサインは何度も送られている。そしてそれは、今回の訪問に限らない。

先に航空母艦HMSプリンス・オブ・ウェールズを訪れた際、チャールズ国王はカナダの勲章を身に着けていた。

カナダのメープルリーフ旗の60周年記念は、通常であれば王室の介入なしに過ぎ去っていたかもしれない。だがチャールズ国王は、カナダを「誇り高く、強靭(きょうじん)で、思いやりのある国」と称賛する、お世辞に満ちたメッセージを送った。

カナダへの儀式剣の贈呈は、バッキンガム宮殿での、国王による正式な式典となった。

また、バッキンガム宮殿での植樹式に選ばれた木はカエデだった。先週のコモンウェルス・デーの式典では、国王はカナダ製の椅子に座った。

こうした象徴的な瞬間が偶然であったとしても、バッキンガム宮殿はそれを否定していない。王室関係者も、国王のカナダへのコミットメントを強調している。

それでも、このバランスを取る動きには緊張と矛盾が伴う。BBCの王室ウォッチ・ニュースレターに寄せられたカナダ人のメールからは、多くの人が国王に、もっと強力な保護を望んでいることが示されている。

カナダの退役軍人であるブライアンさんは、「なんて逃げ腰だ! カナダをオオカミの餌食にするなんて。旗の記念日に背中をたたかれて励まされるだけでは不十分だ。ここにいるのは、王室への忠誠を真剣に再考している王党派だ!」とメールで述べた。

バンクーバー在住のキャロルさんは、イギリスがトランプ氏を2度目の公式訪問に招待したことに不満を抱いていた。

「イギリス人がこんな無作法な人を夕食会に招待しなければならないと思っていることに恥ずかしさを感じる。彼(トランプ氏)がなぜこんなに力を持っているのか、私には全く理解できない」と、キャロルさんは書いた。

パトリシアさんは、「カナダ人として、この招待はカナダの人々に対する侮辱だと感じた。(私たちはコモンウェルスの一員なので)国王が私たちの国王であるなら、そしてトランプが基本的に我々と戦争状態にあるなら、チャールズ国王が彼に信頼を与えるとは何事か?」とメールで語った。

「カナダ人として、チャールズ国王が嘆願者の列に加わっているように見えることに悲しみ、驚き、嫌悪感を抱き、怒りを感じる」と、オンタリオ州在住ジョアンさんは述べた。

しかし、チャールズ国王は英内閣の方針に従わなければならず、それがトランプ大統領との良好な関係を維持することを意味するなら、国王がこれ以上、率直な発言をすることはなさそうだ。

(英語記事 King meets Carney in symbolic support for Canada

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c1kj2mjpvd4o


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