2025年3月20日(木)

未来を拓く貧困対策

2025年3月18日

 2024年の子どもの自殺者数(暫定値)が527人で過去最多となった。前回「〈子どもの自殺者数が過去最多に〉女子中高生は増加傾向、大人は減少傾向しているのになぜ子どもたちが増えるのか?」では、政策によって自殺を減らすことは実現可能であること、そのためには子どもの自殺の徹底した実態把握が必要となることを説明した。

子どもの自殺の前兆を知る仕組みは構築できるのか( Jatuporn Tansirimas/gettyimages)

 しかし、子どもの自殺には、対策を立てるための鍵となる基礎データが不足している。背景には、基礎データを収集するしくみの不存在、批判を恐れて情報提供に消極的な教育現場の姿勢、縦割り行政の弊害がある。これらの課題を克服し、効果的な対策を進めるにはどうすればよいのだろうか。

日本では子どもの自殺対策の基礎データを集めることさえできない

 「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究書」(以下、「こどもの自殺の要因調査」という)という報告書がある。

 こども家庭庁が一般社団法人いのち支える自殺対策推進センターに委託して調査を行ったものである。この報告書では、警察や消防、学校や教育委員会、地方自治体等が保有する自殺に関する統計およびその関連資料を集約し、多角的な分析を通じて子どもの自殺の実態解明と、分析にあたっての課題を把握することを目的としている。

 報告書は、都道府県教育委員会等が保有する「児童生徒の事件等報告書」などの収集を通じて、学校現場が把握している子どもの自殺に関する分析をしようとした。

 あらためて言うまでもないが、小中高校生といった生徒や学生は、家庭と同じか、それ以上の時間を学校で過ごしている。日々、子どもたちと接する教員は、その変化にいち早く気づくことができる立場にある。いじめ、不登校、非行、学業不振、友人や部活の悩みなど、学校生活で生じる様々な悩みは、自殺に至るトリガーとなりうる。

 大人の自殺対策がすすむきっかけとなった「自殺に追い込まれるプロセス(自殺の危機経路)」の子ども版をつくることができれば、子どもにかかわる関係者に問題意識が共有され、対策に向けた動きが出てくることも期待できるだろう。

 しかし、報告書の最も大きな成果は、皮肉にも「教育現場では分析に必要となる基礎データさえ把握しておらず、情報を集めるための体制さえ不十分である」ということを明らかにしたことであった。

 なぜ基礎データが集まらないのか。その原因は3つある。第1にそもそも報告様式の設計に問題がある、第2に教育現場等が情報提供に消極的である、第3に縦割り行政の弊害がある。順にみていこう。


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