2025年3月22日(土)

未来を拓く貧困対策

2025年3月18日

省庁間の縦割り構造が問題解決を難しくする

 子どもの自殺の実態把握を阻む第3の原因は、省庁間の縦割りの構造である。

 大人の自殺対策は、厚労省自殺対策推進室が所管している。都道府県、市町村にもそれぞれ担当者がおり、自殺対策を進めている。国から市町村まで1本のラインがつながっているのである。

 もちろん、これらの対策は、大人だけでなく子どもも対象となっている。しかし、子どもの場合は、文科省にも自殺対策の担当課がある。初等中等教育局では、いじめ、不登校、中途退学、児童虐待、ヤングケアラーなどの諸問題に加えて、児童生徒の自殺対策を担当している。このように二つの部署が重なり合う政策課題を担当することになると、「どちらがこの問題を担当するか」という問題が生じやすい。

 長く大人の自殺対策に関わってきた清水さんは、その経緯を次のように語る。

 「厚労省と文科省では、自殺対策に関する有識者会議のメンバーが別々に選任されています。メンバーの重複は最近までなく、暗黙の了解として、大人の対策は厚労省、児童生徒の対策は文科省というすみわけがありました」

 さらに、文科省は学校が関わる児童生徒の自殺には関与するものの、家庭に由来する問題は所管外とする傾向があるという。生徒同士のいじめや教員からの不適切な指導などは扱うが、家庭の経済問題や親のメンタルヘルスの悪化などの問題は見過ごされやすい。

 今回、増加傾向にある中高生の女子は、学校外の人間関係が大きく広がる年齢でもある。SNSを通じて自殺に関する情報は容易に手に入れることができ、教員が知らない人間関係も増える。学校外で起きる様々なトラブルに、「教育」という枠組みだけで対応するのは難しい。

 こうした限界を乗り越えるために、こども家庭庁が創設された。しかし、清水さんは現実の厳しさを指摘する。

 「こども家庭庁には、自殺対策室が設置されています。しかし体制は脆弱で、『子どもの自殺対策緊急強化プラン』の検証さえ十分に行われていません」(清水さん)

子どもの自殺の実態を把握する方法はある

 データ収集方法、現場の抵抗、縦割り行政の弊害。子どもの自殺対策には、大人とは異なる課題がある。しかし、課題が整理されれば、対策を立てることもできるようになる。

 清水さんは、「子どもの自殺の実態を把握する方法はある」と言葉に力をこめる。

 「自由記述式ではなく、選択式の項目を増やしてフォーマットを統一すれば、自殺の危機経路をより特定しやすくなります。警察庁や消防庁が把握している情報とあわせて分析することができれば、より詳しい情報を得ることができるでしょう。

 数値化して個人が特定しない形で情報を収集するようにすれば、現場の不安を軽減することができるでしょう。これらは、技術的にはすぐにでも解決可能です」

 また、実態を把握するためには、自殺した子どもたちの調査をするだけでは十分ではない。自傷や自殺未遂など、自殺に至る前の情報も集めていく必要がある。「自傷・自殺未遂レジストリ(JAPAN Registry of Self‐harm and Suicide Attempts ; JA-RSA)」は、こうした問題意識から出発し、自傷や自殺未遂により救急医療機関に搬送された患者に関する情報を登録・集積するシステムを運用している。

 事業紹介では、20代の女性が多く、過量服薬(オーバードーズ、OD)で自傷・自殺未遂を図っていることがわかっている。中高生の女子学生が抱える悩みとも重なる部分がある情報といえるだろう(日本臨床救急医学会・いのちささえる自殺対策推進センター「自傷・自殺未遂レジストリ JA-RSA」)。

 さらに、もっと川上の段階、「死にたい」「消えたい」という気持ちのある段階の情報も集めていく必要がある。清水さんが率いる「いのち支える自殺対策推進センター」では、オンラインで相談を受けた相談情報をもとにした分析も進めているという。


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