2025年3月22日(土)

未来を拓く貧困対策

2025年3月18日

自由記述欄ばかりの報告書で実態把握ができない

 第1の原因は、「児童生徒の事件等報告書」の様式にある。

 図1は、文科省が示した報告書の様式である。一見してわかるとおり、ほとんどすべてが自由記述欄であり、選択式の質問が一切ない。少しでも社会調査に携わった経験があれば、「これでは分析のしようがない」とわかるだろう。

出所:厚生労働大臣指定法人・一般社団法人いのち支える自殺対策推進センター「「子供の自殺が起きたときの背景調査」関係資料」  写真を拡大

 こどもの自殺の要因調査にも携わったNPO法人自殺対策支援センター ライフリンク代表の清水康之さん(53歳)は、分析の難しさを語る。

 「『あり』『なし』『不明』といった選択式の設問がないため、『その事実はなかった』のか、『あったが、関連がないと判断して書かなかった』のか、それとも『あったかなかったか、そもそもわからなかったのか』を判断することができません。

 一例として、友人関係の悩みを考えてみましょう。これに関する記載があれば、それが自殺の原因ではないかと推測できます。しかし、書いていないから、友人関係の悩みがなかったと判断することはできません。記入者は友人関係に悩んでいたことを知っていてもあえて書かなかった可能性もあれば、そうした事実を把握していなかった可能性もある。

 同じことは、学業不振、進路の悩み、教師との人間関係など、様々な項目についても言えます」

 自殺の要因は複雑に絡み合っている。ただ、その複雑に絡み合う経路のなかで、「こうした危機経路が多い」という見立てをすることができる。

 たとえば、親から教育に関する強いプレッシャーがあるなかで学業不振に陥り、「最近よく眠れない」とうつ病が疑われるような悩み相談があった。部活動で学友との不和があるなかで、不登校になり、母親は心労からうつ病を発症してしまった。

 こうした状況にある子どもは、統計的にみて自殺に至るプロセスの途上にあると仮説を立てることができるだろう。そして、仮説を検証するためには、実際に何が起こっていたのかの基礎データの収集が欠かせない。

 こどもの自殺の要因調査では、<生前に置かれていた状況>に関する項目を挙げている(図2)。こうした調査項目を参考にして、選択式の報告様式に変更することはすぐにでもできることだろう。

出所:一般社団法人いのち支える自殺対策推進センター「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究」  写真を拡大

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