
マーク・ポインティング気候変動・環境担当リサーチャー、ジャスティン・ロウラット気候変動担当編集長
南極大陸で長期の共同作業を行う予定の研究チームが、メンバーの1人に暴行の疑いが浮上したことで、大きく揺れている。
南アフリカが運営する「サナエIV基地」には通常、約10人の研究者が滞在している。基地は氷棚の端から約170キロ離れており、到達が困難な場所にある。
南アフリカの政府報道官はBBCに対し、基地内で「暴行があった」と述べ、以前からチーム内で不適切な行動があったとの申し立てが出されていたことを明らかにした。
さらに、BBCが確認したメッセージによると、南アフリカ環境省は「最大限の緊急性をもって」懸念に対応しているとしている。
この件を最初に報じた南アフリカ紙サンデー・タイムズによると、研究チームのメンバーらは救助を求めていたという。
環境省はまた、チームのメンバーらが「身元調査、推薦状の確認、健康診断、資格を持つ専門家による心理測定など、いくつかの評価を受けている」と述べた。
この研究基地は、南アフリカ本土から4000キロ以上離れている。厳しい気象条件のため、滞在する科学者らは1年の大半を孤立して生活することになる。
現在のチームは、今年12月まで同基地に滞在する予定だった。
南アフリカは1959年から南極大陸で研究を行っている。サナエIV基地のチームは通常、ドクター1人、メカニック2人、エンジニア3人、気象技術者1人、さらに数人の医療従事者で構成されている。
南極大陸の厳しい気象条件のため、研究者らは多くの時間を閉ざされた屋内空間で過ごすことになるが、通常は問題なく進行する。チームメンバーは出発前に、一連の心理評価を受ける必要がある。
しかし16日付のサンデー・タイムズは、チームの1人が、同僚の「非常に不穏な行動」と、「恐怖の環境」について警告するメールを送っていたと報じた。
南アフリカ政府の報道官はBBCに対し、疑惑の暴力行為は、「チームリーダーがチームに要求した、天候次第でスケジュールの変更が必要なタスクをめぐる言い争い」によって発生したと述べた。
南極大陸での事件はまれだが、前例がないわけではない。2018年には、ロシアが運営するベリングスハウゼン基地で刺傷事件が報告された。
心理学者らは、孤立が人間の行動に与える影響を指摘している。
英心理学会の公認会員でもあるバーミンガムシティ大学のクレイグ・ジャクソン教授(職場における保健心理学)は、「こうしたレアケースから分かることは、強制的な孤立状態やカプセルのような労働環境で何か悪いことが起こる場合、小さなこと、取るに足りないことが紛争に発展することが多いということだ」と指摘した。
「階層構造や仕事の割り当てといった問題、さらに余暇時間や配給、食事量に関する小さな事柄が、急速に、通常よりも大きな問題に発展することがある」
科学者であり著書もあるガブリエル・ウォーカー氏は、南極大陸での研究に参加した経験から、少人数の同僚と密接に働くことにはリスクがあると述べた。
「同僚たちがコーヒーカップをどのように置くか、取っ手をどの方向に向けるか、座る前に鼻を3回かくことなど、すべてを知っていた」
「そして悪い状況では、それがいらだちの原因になることがある。(中略)他に何もないからだ。刺激がなく、24時間365日、同じ人々と一緒にいるので」
南極大陸の研究コミュニティーの情報筋によると、南アフリカは、必要に応じて氷に対応できる船舶と航空機を持っている。
しかし、救助作戦は厳しい気候と戦わなければならない。気温は氷点下を大きく下回り、強風の可能性もある。
追加取材:エド・ヘイバーション、田中美保
(英語記事 Scientists at Antarctic base rocked by alleged assault)