ブラジルの先住民族から初めて新型コロナウイルス感染者が確認された。このニュースはブラジル全土80万人を数える先住民族とその支援に当たる関連団体に重く響いた。その背景には、先住民族の保護策を次々に打ち切るボルソナロ大統領の問題がある。
ブラジルの先住民族から初めて新型コロナウイルス感染者が4月初めに確認された。アマゾン流域の都市マナウスから西に880キロ離れたコロンビア国境に近いサント・アントニオ・ド・イサ市(人口約2万4000人)の行政区に暮らすコカマ族の20歳の女性だった。女性はすぐに隔離されたが、市内ではこの時点で先住民専属の医師ら14人が感染していた。
たった一人の感染だが、ニュースはブラジル全土で約300民族、80万人を数える先住民族とその支援に当たる関連団体にとっては重く響いた。
背景には昨年1月に就任したボルソナロ大統領の問題がある。「ブラジルのトランプ」と呼ばれ、あらゆる偽情報を流して選挙戦を勝ち抜いたボルソナロ氏は、自国の先住民族を選挙中に「奴らは動物園の動物だ」と嘲り、支援策や保護策を次々に打ち切ってきた。
アマゾンなどの先住民族地域は「保護区」や「国立公園」としてその環境が守られてきたが、ボルソナロ氏の登場で従来からの金鉱床盗掘や森林の放火、無断伐採がより深刻化した。衛星写真による観測ではアマゾンの2019年の森林伐採面積は18年の4倍に増えたという。
ブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)によれば、ボルソナロ政権下、森林破壊を食い止めるレンジャーのための予算は半減され、森林保護に充てられる伐採者の罰金も19年は前年比で34%も下落した。
地球温暖化の懐疑派を環境大臣に据え、アマゾン保護に無関心どころか、農地への転用を推し進めるボルソナロ氏はコロナ対策でも極めて野放図な対応を続け、それが先住民族の状況を追い込んでいる。
コロナ禍で先住民族地域を見回るIBAMAのフィールドワーカーの半数近くが身動きとれない状態となり、それと入れ替わりのように森林違法伐採などを生業とする犯罪者たちが横行しているという。
一人の感染者が出たのを受け、多くの民族は居住地域を外部から閉鎖し始めている。だが、人里離れた奥地の民族はまだしも、食料を外部の支援に頼っている地域や観光を収入源としてきた民族は飢餓に瀕してもおかしくはないところまで追い込まれている。
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