世界の記述

2020年2月13日

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 まるで駄々っ子のよう。筆者がマッテオ・サルビーニという人物に抱いた最初の印象だ。サルビーニ氏は現在、イタリアで一番目立つ政治家であり、虎視眈々と首相の座を狙っている。北部を拠点とする右翼政党「同盟」の書記長で、昨年8月まで政権の一角で副首相兼内相を務めていた。

首相の座を狙うマッテオ・サルビーニ氏(ロイター/アフロ)

 なぜこのような人物が政治の中心に、と眉をひそめたくなるが、考えてみれば、彼のように何かと声が大きく罵詈雑言を吐く人こそが、イタリア人に最も好まれる政治家でもあるのだ。好かれると言っても、支持されるということではない。支持でも不支持でも、バルで日頃の話題になる存在ということだ。1994年から11年まで政権に出入りしたベルルスコーニ元首相はそんな目立ちたがり屋の典型だったが、まだしも茶目っ気があった。

 筆者がサルビーニ氏を駄々っ子と感じた理由は、発言の幼稚さだった。「ルーマニア人やアルバニア人、中国人が増え、ミラノは犯罪だらけだ」と主張したため、犯罪実数が減っている統計を示すと「本当?」と応じ、「でもとにかく、彼らは多過ぎる。ミラノの綺麗な通りが今はチャイナタウンみたいだ」と外国人嫌悪を露わにした。しまいには「子どもの教育のためにオーストラリアに移住したい」とこぼしたため、「そしたら、あなたも移民になりますね」と応じると「俺たちはイタリア人だ。大歓迎される」と何やらムキになっていた。

 下院議員に初当選した直後、2008年のサルビーニ氏の言葉だが、今もさほど変わらない。ただ、こうした差別的言動を歓迎したのは、当時はまだ一部だったが、今や移民排斥は即、票に繋がる。相対的に駄々っ子の人気は高まったわけだ。

 ベルルスコーニ氏が率いた右派連合と民主党など左派との二大政党制がどうにか機能していた10年前からこの方、イタリア政治は紆余曲折を続けた。経済通のテクノクラートから左派の若手首相、既存の政治システムそのものに反対する左派ポピュリストから、「北部」の名を取り除き全国展開を図るかつての極右、サルビーニ氏率いる「同盟」までが群雄割拠し、収拾のつかない状態になっている。

 サルビーニ氏は、左右寄せ集めで18年に発足した現コンテ政権とは昨年8月に袂を分かち、今は政権奪取を狙っている。政権の一角、左派ポピュリスト「五つ星運動」の弱体化を好機と見て、自身の人気をさらにあげようと、1月末のエミリアロマーニャ州などでの州知事選に乗り込んだ。

 サルビーニ氏は「これはただの地方選ではない、政権の是非を問う国民投票だ」と連日、メディアの前で大騒ぎを繰り広げた。要は「同盟」の候補者を勝たせることでコンテ政権を解散総選挙へと追い込み、自身が次期首相になろうという算段だった。

 ところが、結果は、元共産党系の左派の現職が7ポイントも差をつけ「同盟」候補を破り、サルビーニ氏の野望はあえなく潰えた。彼を追い込むのに大きな働きをしたのが、サルビーニを文字って「サルディーニ(イワシたち)」を名乗る運動だった。広場に集まり、投票に行くよう呼びかけ、リーダー格の人々も一切メディアの取材には応じない静かな動きだ。それが効いたのか、州知事選の投票率は前回14年より30%も増え、68%に達した。

 広場に集まる人々の手で排除された形のサルビーニ氏だが、「左派の支持層を減らすという大きな前進があった」と語り、政権奪取を諦めてはいない。この先、サルビーニ氏は台頭するのか。つまり彼のような元極右が国のトップに立つのか、それともイワシたちがそれを食い止めるのか。彼の盛衰がイタリア政治の今後の見どころだろう。

  
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