2024年4月20日(土)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2012年7月27日

通貨安競争の再来は日本を窮地に

 金利低下も通貨安要因だが、量的金融緩和政策がくわわればさらに通貨安がもたらされかねない。そもそも、財政政策に制約が強まり、金融緩和政策にも余地が乏しくなれば、景気下支えをより通貨安に託する国が増える可能性も大いにある。このような事態が起これば、2010年に生じた通貨安競争が再来してしまう。

 悩ましいのは、通貨安競争が再来した場合、解決する即効薬に乏しいことだ。2010年には、主要国の対外不均衡を中長期的に是正することで通貨安競争を抑え込もうとした。しかし、この方策は、対外収支黒字国であった中国等の新興国が高成長を遂げていて、政策対応で余裕があったから成り立った面がある。現在債務危機にあるユーロ圏が、いくら貿易黒字を是正しようとしても、ユーロ高にするために金利を上げたり、財政を拡張して輸入を増やすといった政策が採れるはずもない。

 さらに、足元厳しいのは、2010年当時と比べて世界経済が鈍化していて、新興国経済の高成長といった神風が吹くことも見通しにくいことだ。ちなみに、2010年の世界経済成長率は5.3%(IMF)と高かったが、2012年見通しは3.5%と低く、主要国全般に政策余地は乏しい。

 通貨安競争の再来は、とりわけ日本にとって厳しくなる可能性がある。それは、貿易黒字国・地域の通貨が一段と安くなる一方、日本だけが、貿易赤字国であるにもかかわらず、歴史的な通貨高に苦しむことだ。もちろん、そうなれば日本も無策であってはならず、いまから手段を駆使して一層の円高を阻止しなければならない。

 足元の世界経済は一段と不透明になりつつあり、ユーロ急落や歴史的低金利は今後の厳しい展開を示すようでもある。ここは、通貨安競争に陥らぬよう、自律的に内外経済が成長力を回復するまで時間稼ぎをしていくことが不可欠な局面といえ、日本にも責任と覚悟が求められる。

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