海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年12月31日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「米国は再び偉大にならなかった」です。ジョー・バイデン次期大統領の就任式まであと20日あまりになり、間もなくカウントダウンが始まります。ドナルド・トランプ大統領は1期4年で大統領の任期を終了することになりました。そこで本稿では、トランプ大統領の功罪に焦点を当てます。

フロリダ州パームビーチで休暇中のトランプ大統領に旗を振る支持者たち(REUTERS/AFLO)

2020年を一言で表現すると……

 米ワシントン・ポスト紙が2000人余りの読者に2020年を一言ないしフレーズで記述してもらいました。その結果、トップ3に選ばれたのは、「疲労」「喪失」及び「混沌」でした。

 今年を「疲労」の年であったと表現した読者は、新型コロナウイルス、トランプ大統領、警察官による暴行事件、失業などを例として挙げました。確かに、どれをとっても神経を疲弊させたものばかりです。

 加えて、この読者は疲労の原因について新型コロナウイルスの影響でスポーツ観戦の機会が減少し、楽しみが少なくなったと指摘しました。

 一方、「喪失」と述べた読者は、学生、家族、ウエディング、休暇、人間関係及び不必要な死去を例として示しました。コロナ禍で学生は対面ではなくオンライン授業を余儀なくされています。米国では1940万人が新型コロナウイルスに感染し、死者数は33万6000人(日本時間12月30日時点)を突破しました。

 今年を「混沌」と捉えた読者は、新型コロナウイルス、大統領選挙後の状態、トイレットペーパー、人種差別、トランプ大統領と共和党などを例として挙げました。

 11月3日の投開票日直後の状態は、正に混沌としか言いようがありませんでした。トランプ・バイデン両氏が「勝利宣言」を行いました。

 結局、バイデン氏が過半数を超える選挙人「306」を獲得したのにもかかわらず、トランプ氏は敗北宣言を行いません。しかも、米国史上最悪の不正選挙であったと根拠のない訴えを繰り返し、法廷闘争に出て社会に混乱を招きました。

 では、この調査結果を通じて2020年をどのように読み解くことができるのでしょうか。もちろんトランプ大統領がフェイクニュースとレッテルを貼ったワシントン・ポスト紙の読者の中には、トランプ支持者は殆どいないでしょう。

 ただ上の調査結果をみる限り、20年の米国社会を象徴する「疲労」「喪失」及び「混沌」を引き越した原因は、新型コロナウイルスとトランプ大統領にあるといえそうです。

「息ができない」3重の意味

 ちなみに、同調査では20年を象徴するフレーズに「息ができない」があります。このフレーズには少なくとも3重の意味が含まれています。

 第1に、中西部ミネソタ州ミネアポリスで5月25日、白人警察官によって膝で首を押さえつけられて死亡した黒人男性ジョージ・フロイドさんが訴えた言葉です。

 「息ができない」は、全世界で人種差別反対の大規模な抗議運動を起こしました。これに対して、トランプ氏は「法と秩序」を全面に出して警察官を擁護し、社会の分断を深めました。

 第2に、新型コロナウイルスに感染して重症化した患者も息ができません。第3に、今回の米大統領選挙でミリシア(武装した自警団)による投票妨害を容認し、民主主義にダメージを与えたトランプ氏が大統領の職に就いている米国社会では「息ができない」という意味です。

 全世界の民主主義の擁護者であるはずの米国が、同主義を巡って多いに揺らいだ1年であったといえます。

1期4年トランプの功罪

 USAトゥデイ紙とサフォーク大学(東部マサチューセッツ州)の共同世論調査(20年12月6~20日実施)によれば、4年間にわたるトランプ大統領の遂行に関する質問に対して、36.4%が経済政策と回答しました。次に28.4%が「なし」、13%が外交政策と答えました。

 有権者は新型コロナウイルス感染拡大前の好調な経済を評価しています。一方で、約3割が功績が全くなかったと厳しい評価を下しました。外交政策に関しては、トランプ政権がイスラエル、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化に貢献した点を功績として捉えているのでしょう。

 加えて、同調査が1期4年におけるトランプ大統領の失敗について尋ねたところ、21.9%がリーダーシップ(Make America Great Again:米国を再び偉大にする)、20.1%が人種問題、11.1%が移民問題、10.4%が気候変動を挙げました。これに対して、外交政策及び経済政策はそれぞれ3.1%と2.1%に止まりました。

 率直に言ってしまえば、科学よりも株価を重視するトランプ大統領はコロナ禍のリーダーに適さなかったのかもしれません。トランプ氏のリーダーシップの失敗を主張する有権者は、この4年間で「米国は再び偉大にならなかった」とみています。

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