海野素央の Love Trumps Hate

2020年12月15日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「バイデンとトランプの人事 どこがどう違うのか?」です。ジョー・バイデン次期米大統領は外交・安全保障チームなどの主要な閣僚・高官人事を発表しました。その特徴は、人種やジェンダーにおける「多様性」及び、「実績」にあります。

 2020年米大統領選挙において、女性票と黒人票を稼いで勝利を収めたバイデン次期大統領が、多様性に富んだ組閣をするのは理解できます。CNNの出口調査によれば、バイデン氏はドナルド・トランプ大統領に対して、女性全体で15ポイント、黒人女性では81ポイントの差をつけて勝ちました。

 共和党上院が多数派を維持する可能性があるので、承認公聴会で同党議員から支持を得るために、バイデン氏が実績のある人物を選択するのは当然です。

 バイデン人事の特徴は、多様性と実績以外にもあるのでしょうか。加えて、バイデン氏とトランプ氏の人事は、一体どこがどう違うのでしょうか。本稿ではバイデン・トランプ両氏の人事の相違点に焦点を当てます。

12日、ワシントンDCで行われたトランプ支持者の抗議デモに参加した元大統領補佐官のマイケル・フリン氏(UPI/AFLO)

すでに存在する信頼関係

 バイデン氏は国務長官にオバマ前政権の国務副長官アントニー・ブリンケン氏、大統領補佐官(国家安全保障問題担当)にジェイク・サリバン氏、国防長官に元中央軍司令官のロイド・オースティン氏を起用しました。ブリンケン氏はキャリア外交官で、副大統領補佐官及び、大統領副補佐官として、外交問題のアドバイザーを務めました。20年米大統領選挙ではバイデン陣営の外交政策顧問でした。

 ブリンケン氏は外交におけるバイデン次期大統領の側近中の側近で、2人の間にはすでに信頼関係が構築されています。

 同様に、バイデン氏はサリバン氏とも人間関係を築いています。サリバン氏はオバマ前政権の副大統領補佐官で、イラン核合意の交渉に深く関わりました。バイデン陣営では国内外の政策に関与し、新型コロナウイルスに関する戦略を立案しました。バイデン氏は、同氏を最も信頼できるアドバイザーの1人と呼んでいます。

オースティン氏起用の理由

 バイデン次期大統領はアトランティック(電子版)に寄稿し、その中でオースティン氏を国防長官に起用した理由について説明しました。

 第1に、次の国防長官は即座に、米軍による新型コロナウイルスのワクチン供給の大規模な輸送作戦を指揮する必要があるからです。オースティン氏はイラクで米軍削減という最大の輸送作戦を実行しました。

 第2に、オースティン氏は約20年間も続いている戦争について、戦争のコスト及び米軍家族の誇りと苦痛を理解しているからです。

 一部の米メディアはバイデン政権を、「第3次オバマ政権」と呼んで揶揄しています。これに関して、バイデン次期大統領は米NBCニュースとのインタビューで強く否定しました。

 バイデン氏はオバマ政権が8年間並びにトランプ政権が4年間でやり残したことを遂行したいのです。おそらくオースティン氏にアフガニスタン戦争の終結を望んでいるのでしょう。

 第3に、オースティン氏は議会で承認されれば、黒人、ラテン系、アジア系、先住民及びLGBTQ(性的少数者)を含めたすべての軍人に敬意を払うからです。黒人初の国防長官になるオースティン氏が、米軍における人種及びジェンダーの差別問題に取り組むことを、バイデン氏は期待しているのでしょう。

 特に、オースティン氏がプレッシャーの中でどのように反撃をするのかを理解している点を、バイデン氏は評価しています。その例として、オバマ政権時代にイラクとシリアで過激派組織「イスラム国(IS)」の脅威が増大したとき、中東地域を管轄する中央軍司令官であったオースティン氏が70カ国以上のパートナーと一緒に、イスラム国を打ち負かす作戦をとった点を、起用の理由として挙げています。

長男ボー氏の影響

 ただ、バイデン氏がオースティン氏を起用した理由は本当にこれのみでしょうか。オースティン氏は、米陸軍に所属してイラク戦争に従事していたバイデン氏の長男ボー氏の上司でした。カトリック教徒のオースティン氏とボー氏は、イラクで任務に当たっていた当時、ほぼ全ての日曜日に一緒にミサ(聖祭)に参加していたと言われています。帰国後も、両氏は関係を維持していました。

 ボー氏は15年、46歳の若さで脳腫瘍で死去しました。ところが、バイデン次期大統領はボー氏の過去の意見を考慮に入れて人事を行っています。

 例えば、副大統領にカマラ・ハリス上院議員(西部カリフォルニア州)を起用した理由に、ボー氏の同議員の仕事に対する高い評価があったことを明かしました。ハリス氏はカリフォルニア州、ボー氏は東部デラウエア州の司法長官を務めていたとき、サブプライム住宅ローン問題で住宅所有者を救済するために、金融機関を相手に共闘しました。

 バイデン氏は今でも、「ボーは私が最も信頼できるアドバイザーだ」と明言しています。今回の国防長官の人事においてもバイデン氏は、ボー氏から耳にしたオースティン氏の能力及び人柄を重視したフシがあります。

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