今回のテーマは、「トランプ敗北宣言『5つのシナリオ』」です。2020年米大統領選挙で、過半数の選挙人「270」を獲得できなかったドナルド・トランプ大統領は、投票機械の選挙管理ソフトウエアに不具合が生じたために、同大統領の票がジョー・バイデン次期大統領に流れたと主張しています。
トランプ大統領は敗北宣言をせずに、いつまで具体的な根拠のない抗議を続けるのでしょうか。最終的に敗北宣言を行うのでしょうか。本稿では、トランプ氏の敗北宣言の可能性に焦点を当てます。
敗北宣言の意味
米大統領選挙における敗北宣言の始まりは1896年の選挙でした。この年に実施された選挙で敗れた民主党のウィリアム・ジェニングス・ブライアン候補が、共和党のウィリアム・マッキンリー候補に投開票日の2日後に送った電報からです。
敗北宣言は法律及び合衆国憲法で明文化されたもではなく、慣習ないし伝統ですが、選挙プロセスにおいて極めて重要な地位を占めています。敗北宣言により大統領選が「ノーサイド」になり、米国を1つにするという意味が含まれているからです。その役割を果たすのが敗れた候補です。
オーストラリアにあるアデレード大学のポール・コロラン教授は敗北宣言の目的に関して、「敗北を認める」「国民に団結を求める」「民主主義を祝う」「戦いの継続を誓う」の4つを挙げています。「戦いの継続を誓う」とは、選挙に敗れても、政策の実現に向けて戦い続けるという意味です。
コロラン教授は敗北宣言は重要な政治的機能を備えていると強調しています。
敗北宣言の日数と位置づけ
1980年以降の米大統領選挙をみますと、敗れた11人の候補の内、6人が投開票日に敗北宣言を行いました。翌日に宣言をした候補はヒラリー・クリントン氏を含めて3人です。
敗北宣言が投開票日の翌日以降になった例を挙げてみましょう。2000年米大統領選挙で南部フロリダ州の再集計を求めたアル・ゴア氏は、投開票日から36日後に敗北宣言を行いました。投開票日から17日が経過しましたが、トランプ大統領は依然として敗北を認めていません(11月20日時点)。トランプ氏はゴア氏の記録を破るかもしれません。
2008年米大統領選挙でバラク・オバマ前大統領に敗れた故ジョン・マケイン上院議員(共和党・西部アリゾナ州)は、同前大統領に電話を入れて「おめでとう」と伝えたと、支持者の前で語りました。この言葉に反応した支持者がブーイングを飛ばすと、マケイン上院議員は即座にそれを制止したのです。この映像は、敗北宣言の「手本」として残っています。
16年米大統領選挙ではトランプ大統領に敗れたヒラリー・クリントン元国務長官は敗北宣言で、「我々は平和的な政権移行に敬意を示すのみならず、(移行を)大切にしてきた」と語気を強めました。しかも、クリントン氏は襟が紫色のスーツを着用して登場しました。
周知の通り、民主党のカラーは青色であるのに対して、共和党は赤色です。青色と赤色を混ぜると、紫色になります。同氏は服装という非言語コミュニケーションを通じて、米国民に対して「団結」のメッセージを発信しました。
敗北宣言は民主主義のプロセスの1つに位置づけられています。