海野素央の Love Trumps Hate

2020年11月2日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

1日アイオワ州ダビュークで集会を行ったトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

 11月3日投票日を目前に控え、再選めざすトランプ大統領はバイデン民主党候補とは対照的に、最後の週も、なりふり構わず過密な遊説スケジュールをこなした。しかし、もはや「時間切れ」との見方が有力になりつつある。

 政治専門の米デジタル・メディア誌「Politico」は、投票日まで残り10日を残すのみとなった最終段階での「慎重かつ自信にあふれた」バイデン陣営の戦いぶりに焦点を当てた展望記事を掲載した(10月26日付)。

 それによると、過去の大統領選では候補者は、最後の2週間は専用機で1日当たり3~4州を駆け巡り、支持を訴えるのが通例だった。しかし、バイデン氏はデラウェア州の自宅にとどまり、たまに他州に遊説に出るほかは主としてテレワークを通じ有権者に語り掛ける“巣ごもり作戦”を貫いてきた。コロナ感染危機以来、大勢が集まるイベントの自粛と「3蜜」を回避したマスク着用の重要性を国民に訴えてきた手前、頻繁な遊説集会開催により参加者への感染拡大につながることを警戒したからだ。

 しかし、最大の理由は、最後の段階で派手に動き回った結果、万が一にもトランプ大統領同様、コロナに感染した場合、高齢ゆえの症状悪化の懸念のほかに、大統領のコロナ対策の無策を批判してきた自らの主張と立場が土壇場で批判にさらされるからだという。バイデン氏は過去数カ月、毎週最低1回のペースでウイルス感染検査を受けてきたが、これまでのところすべて「陰性」結果が出ている。

 さらに「Politico」の記事によると、トランプ氏は過去40日間で激戦諸州の48カ所の演説会場を飛び回り、熱狂的支持者相手に得意の毒舌を披露してきたものの、コロナ感染の危険を軽視する姿勢に対し遊説先での批判がかえって高まり、逆効果を招いている。

 民主党系の世論調査機関「Global Strategy Group and Hart Research」の追跡調査を引用したもので、ウイスコンシン州ではトランプ集会後、同氏に対する印象が「より悪くなったless favorable」と回答した有権者が56%に達したのに対し、逆に印象が「良くなったmore favorable」と答えた人が26%にとどまるというみじめな結果となった。

 同様に、アリゾナ州では、印象が「より悪くなった」が55%、「良くなった」が26%、フロリダ州で印象が「より悪くなった」が58%、「良くなった」が22%、ノースカロライナ州で印象が「より悪くなった」が55%、「良くなった」が25%、ペンシルバニア州で「より悪くなった」が58%、「良くなった」が22%、ミシガン州でも印象が「より悪くなった」が56%、「良くなった」が25%、となっており、大統領がコロナ危機の最中に遊説で熱弁をふるった何れの州においても、かえって評判を著しく落とす結果となっている。

 しかも、これら諸州は、トランプ氏が再選を果たすために死活的に重要な拠点州であるだけに、リードを許すバイデン氏との差を埋めるための最後の精力的な選挙活動も結果的に空振りに終わった可能性が大きい。 

 ちなみに投票日前1週間にトランプ大統領がこなした遊説スケジュールは以下のようになっており 一時はコロナ感染で緊急入院となった身とは思えない過密ぶりだった:

10/23(金)

    1.00AM テネシー州ナッシュビルでのバイデン候補との第2回討論会を終え
        「エアフォースワン」でワシントンに帰着

    4:30PM フロリダ州ザ・ビレッジズで演説

    8:00PM 同州ペンサコーラで演説

    11:20PM 同州パームビーチ別荘に投宿

・10/24(土)

    9:30AM ウェスト・パームビーチの期日前投票所で投票

   12:30PM  ノースカロライナ州ランバートンで演説

    3:15PM オハイオ州コロンバスで演説

    4:00PM   同州サークルビルで演説

    7:15PM   ウイスコンシン州ミルウォーキーで演説

    8:00PM   同州ウォーケシャで演説

   11:30PM  ワシントンに帰着

・10/25(日)

        12:30PM  ニューハンプシャー州マンチェスターで演説

          2:30PM メーン州レバンドで演説

    7:30PM ワシントンに戻り、ホワイトハウスでCBSテレビインタビュー

・10/26(月)

         11:00AM ペンシルバニア州アレンタウンで演説

    1:30PM  同州ランカスター空港ロビーで演説

    4:30PM 同州アルテゥーナ郡空港で演説

    7:40PM ワシントンに帰着

    9:00PM   ホワイトハウスでエイミー・バレット新任最高裁判事宣誓式に出席

・10/27(火)

          2:30PM   ミシガン州ランシングで演説

    5:45PM   ウイスコンシン州ウェストセーラムで演説

            9:00PM   ネブラスカ州オマハで演説

    10:25PM ネバダ州ラスベガス向け出発

・10/28(水)

         1:15AM   ラスベガス・ホテル投宿

       1:55PM 共和党支持者集会

       3:00PM アリゾナ州ブルヘッド市で演説

     5:45PM 同州フェニックス市で演説

     11:30PM   フロリダ州マイアミのリゾートホテル投宿

 これとは対照的なのが、バイデン候補の戦いぶりだ。

 去る22日、トランプ大統領との第2回討論会を終え、その日のうちにデラウェア州ウイルミントンの自宅に舞い戻ったバイデン氏は、翌23日は外出せず、ネットを通じバーチャル演説を行うにとどめた。翌24日は、隣の州のペンシルバニア州内2会場での遊説集会に足を運んだものの、その後は26日に至るまで主だったイベント出席を控えた。以後は、投票日に向け、ジョージア州(27日)、フロリダ州(29日)、ウイスコンシン(30日)、ミシガン(31日)激戦4州での演説集会に短時間だけ姿を見せたのみだった。 

 多くの選挙プロは、最新の各世論調査で、勝敗のカギとなるとみられるペンシルバニア、ミシガン、ウイスコンシン3州すべてでバイデン氏が「安定的リード」を維持していることが明確になったことから、バイデン陣営は土壇場でのトランプ氏による猛反撃をよそに、目立った活動はなるべく控え、バーチャル演説やTV、ラジオ広告による投票呼びかけがより効果的と判断している、とみている。

 このこと自体、今回大統領選の景色が2016年と比べ、すっかり様変わりしたことを示している。すなわち、本来なら、現職の有利な立場をフルに生かし余裕ある再選の戦いを進められるはずのトランプ氏が、今回、最後の最後までまるで「挑戦者」のようながむしゃらな戦術で臨まざるを得なくなった。それだけ、崖っぷちに立たされていることを示している。

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