Washington Files

2020年10月5日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

トランプ大統領のコロナウイルス感染騒ぎは選対本部首脳陣にまで広がり始め、大統領選投票日まで1カ月を残すのみとなった再選戦略も大混乱の様相を呈している。

(ablokhin/gettyimages)

 「選対本部長も陽性反応」―4日未明のトランプ大統領のコロナ感染に続き同日深夜、ビル・ステピエン氏の感染を伝える至急報がワシントン政界を揺るがした。同日午後には与党共和党の最高責任者ロンナ・マクダニエル全国委員長の「陽性診断」まで伝えられており、この結果、再選ゴールに向け航海を続けてきた“トランプ丸”は船長以下重要幹部が突如、“下船”を強いられ漂流状態となっている。

 ワシントンポスト、ニューヨークタイムズなど米主要各紙のこれまでの報道によると、トランプ陣営は2016年1月政権発足と同時に、再選委員会を立ち上げ、選挙資金集めなどの周到な戦略を練り上げてきた。つねにその陣頭指揮に当たったのが、トランプ大統領だった。選挙戦終盤にはいってからも、遊説地及びその日程など劣勢挽回のためのディテールにわたる判断も大統領自らが決定してきたといわれる。

 このため、大統領の「陽性」確認後、「治療目的で市内の軍病院搬入」の緊急報を伝えたCNNテレビは同日午後、指揮官が欠けたホワイトハウスでは今後の選挙戦スケジュール変更などについての確かな情報も発信されず、混乱状態となっていると報じた。

 ペンス副大統領は大統領の感染判明後、ウイルス検査を受け「陰性」と判断されたものの、ホワイトハウスでの感染者が増えるにつれて万全を期し、今後は出入りを自主規制した上、数キロ離れた副大統領別邸での執務を余儀なくされるとみられる。当分、メディア対応に支障をきたすことも避けられない。

 ホワイトハウス内での感染者が今後、さらに増える可能性もある。

 そこに追い打ちをかけたのが、選挙戦のPR作戦、ロジスティックを取り仕切るステピエン選対本部長の感染だった。側近によると、感染判明後、選挙戦の実務はジャスティン・クラーク副本部長が引き継ぐことになり、ステピエン氏は“自己隔離”状態で自宅にこもり細かな指示を出す予定という。ただ、クラーク氏は2000年大統領選ではアル・ゴア民主党陣営の経理担当スタッフだったこともあり、今回大統領選で共和党内ではその“忠誠度”に疑問を呈する声も一部に上がったこともある。

 このため、首都近郊のバージニア州アーリントンにある「再選委員会本部」は、大統領不在となったホワイトハウス同様、当分は「主人なき空白感」に包まれる状態が続くことになりそうだ。

 トランプ選対本部ではこれより先、過去1年半にわたり本部長を務めてきたメディア戦略のベテラン、ブラッド・パーズケイル氏が去る7月、選挙資金の浪費疑惑などで大統領によって配置転換処分となり、「上級顧問」扱いとされたばかりだった。後任に抜擢されたのが、ステピエン氏だった。

 しかも、パーズケイル氏はその後、「上級顧問」にも見切りをつけ、フロリダの自宅にこもりきりとなり、先月28日には「精神的混乱状態」(地元警察)から自宅で夫人に暴力をふるった挙句、自殺未遂の騒ぎを起こし、警察に連行されるスキャンダルを起こしている。

 加えて、マクダニエル共和党全国委員長のウイルス感染とその後の「自宅隔離」も、共和党陣営にとっては大打撃だ。

 同女史は、中西部ミシガンを代表する大物政治家でかつて大統領候補としても全米に名をはせたジョージ・ロムニー元同州知事の孫娘、さらにミット・ロムニー現上院議員(ユタ州)の姪でもあり、早くから政治プロとしての実績を積み上げてきた。2016年大統領選では、トランプ陣営の選挙資金集めで中心的役割を果たし、トランプ氏当選後の同年11月、同党全国委員長に就任した。

 その彼女が一時的とはいえ、選挙戦から身を引くことになったことについて、大統領選への影響だけにとどまらず、今回野党民主党が奪回をめざす上院選でも、改選で再出馬した共和党議員らの選挙戦でも打撃となることは必至とみられている。

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