Washington Files

2020年10月19日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 米大統領選が大詰めを迎える中、ウォール街では早くも「バイデン勝利」を前提に、民主党政権発足後の大型景気浮揚策と財政支出を歓迎する動きが広がっている。

(Fabrice Cabaud/gettyimages)

 「バイデンのブルー・ウェーブ(民主党旋風)は米国経済を押し上げるだろう」―長期経済予測で知られる大手投資銀行ゴールドマンサックスのチーフエコノミスト、ジャン・ハッチャス氏らは去る5日、顧客向けにニュースレターを送付、この中で、11月3日の大統領選と議会選挙の両方で民主党が勝利する“ブルーウェーブ”が実現した場合の米国経済展望を明らかにした。

 ウォール街では今年の大統領選前半までは、バイデン候補が当選した場合、法人税引上げを公約してきたことなどを理由に悲観論が支配的だった。しかし、つい最近になって、各種世論調査でバイデン氏が全国レベルのみならず、勝敗を決するウイスコンシン、ミシガン、ペンシルバニアなどの接戦州でも有利な戦いを続けていることから、「バイデン勝利」の可能性大と見て、民主党政権下での経済政策を好意的に評価し直し始めた。

 ゴールドマンサックスによる経済展望は、民主党による“ブルーウェーブ体制”確立を前提として、以下のように指摘している:

  1. バイデン氏が当選したとしても、これまで法人税の21%から28%への引上げなどを公約してきたため、投資家の短期的な反応としては、楽観材料と悲観材料が交錯したものとなるとみられる。
  2. しかし、バイデン政権は、議会の承認を得て最低2兆ドルの景気浮揚経済対策を打ち出すことになり、景気刺激策の効果が短期的にも期待できる。
  3. 長期的に見ても、インフラ、気候変動対策、国民健康保険充実、教育への大規模支出により、経済成長促進につながり、法人税増税などのマイナス効果を十分相殺できる。
  4. “ブルーウェーブ”体制により、財政政策が推進しやすくなり、貿易戦争リスクも軽減される結果、投資家も「より確固たるグローバル経済成長」を展望できるようになる。
  5. さらに、このような積極策は、完全雇用と2%以上のインフレ率達成までの間、連邦準備制度理事会(FRB)による公定歩合も当分、据え置きとなることを前提とした場合、前倒し的な国内総生産の増加のみならず、個人消費支出(PCE)インフレをももたらすことになるだろう。

 ニューヨークタイムズ紙の経済展望記事(10月7日付)によると、このうち、短期的な投資家の反応についても、もし、バイデン氏が小差ではなく大差で勝利した場合、ウォール街はこれを即座に歓迎し、かなりの株価上昇につながると多くの証券アナリストたちが見ているという。選挙戦後半に入り、劣勢に立たされるトランプ大統領は接戦でバイデン候補が当選した場合の対応について「結果を受け入れるかどうかは、その時になってみないとわからない」と語り、一時は株価の乱高下を招いた。しかし、バイデン氏がかなりの票差で勝利した場合、政治的混乱も回避され、バイデン新政権誕生への期待が高まるからだという。

 「民主党ブルーウェーブは2021年米国経済成長のためのベスト・シナリオ」とする見方も出ている。

 Pantheon Macroeconomics社のチーフ・エコノミスト、イアン・シェファードソン氏は有力誌「ニューヨーカー」とのインタビュー(10月8日付)で次のように語っている:

 「ウォール街はようやく最近になって、バイデン当選と民主党議会掌握こそが、とくに来年に向けての経済成長のための最善の結果という判断に落ち着きつつあると思われる。なぜなら、共和党より民主党の方が景気刺激志向であり、とくにターゲットを絞った資金投入が予想される。これに、バイデン氏がスローガンに掲げてきた国全体の『より良い再建Build Back Better』構想による数兆ドル規模の財政支出を合わせたプラス効果は、増税によるマイナス効果をはるかに上回るものになるはずだ」

 同誌はさらに、Moody’s Analyticsの経済アナリスト、マーク・ザンディ、バーナード・ヤロス両氏の見方として①もし2020年内に追加経済対策法案が成立せず、経済がとん挫したとしても、来年、民主党政権は最大3兆ドル規模の財政支出に乗り出すことも考えられる②かりに2兆2千億ドル程度に抑えられたとしても、GDP10%超の刺激策となり、結果的に、インフレ率が極端に低く経済活動拡大のための余地が十分残されている現状からみて、国内総生産と雇用を一段と押し上げことになる③加えてコロナ感染対策のワクチンが全米に普及すれば、2023年冬どころか2022年春までに完全雇用を実現できるシナリオも視野に入ってくる④それによって、社会不安、国論分断の改善にもつながることが期待できる―などの点を指摘している。

 さらに、JPモルガン・チェイス社は投資家向けに最近、バイデン政権誕生後に予想される“勝ち組”、“負け組”の関連企業までリストアップしている。

 それによると、“勝ち組”には健康・医療、再生エネルギー、土木などのインフラ、対中国貿易関係改善に便乗するメーカーなどが挙げられる一方、“負け組”としては、低賃金労働依存型企業、防衛関連産業などが含まれるという。

 このようにウォール街はじめ米財界では、かねてから政治イデオロギーには拘束されることなく、国内外の情勢次第で民主、共和両党とも微妙かつ複雑な関係を維持してきた。2016年大統領選においても、予想外の開票結果となる直前までは、「ヒラリー・クリントン民主党政権歓迎」ムードがウォール街では支配的だった。

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