これまで筆者は原発事故による売上げ減に悩む多くの農家から「個人で東電に立ち向かうのは難しい」という話を聞いてきたが、畠さんも、個人請求で苦労する友人たちの姿を見て、窓口となる組織探しに奔走した。
前述したように、畠さんはJA経由での販売は行っていないが、JA新福島から資材や農薬を購入するなど、同JAの組合員にはなっている。そのため当初は、JAを窓口に賠償金請求の準備を進めてきた。しかし途中で断念することになる。
「やはり一個もリンゴを出荷していないため、知り合いの職員に『面倒を見るのが難しい面もある』と言われました。それで不安になり、ほかの窓口を探すことにしたんです」
この背景には、JAが合併を繰り返すなかで、組織が大きくなり、職員と組合員の間に距離が生まれていることが挙げられるだろう。
畠さんは結局、共産党の町会議員に頼り、党が作る農民連という組織に加入させてもらい、無事、損害賠償を受け取ることができた。
お客さんの声を励みに
筆者が取材したのは9月中旬。2012年シーズンの結果はまだ見えないが、畠さんは「手ごたえは感じている」と話してくれた。
「地元のお客様には、町のスーパーなどでよくお会いするんですよ。そのとき、多くの方から『今年の出来栄えはどう?』『いつから販売?』って聞かれるんです。とても励みになります」
同園は福島県内の地元客が大半を占めるが、そのことも売上げ回復の大きなアドバンテージになると、畠さんは感じている。
「福島の内側にいる方は、県外の方よりも福島の農産物を買うことの抵抗感が、壁一つ少ないんです。私自身そうですし。数値を包み隠さず公開したり、この地でリンゴを作り続ける姿勢を見せることで、壁をなくすことができる。そう信じています」
もちろん2012年シーズン、売上げが100%戻るとは考えてはいない。
「売上げ3割減を1年で回復するのは無理ですが、毎年1%でも増えていけば、将来的には元に戻すことができる。その気持ちを持って、やっていくしかありません」
畠さんはこれまで、美味しいりんごを作ることだけを考え、毎年、励んできた。それが『放射能を減らす』ことが第一の使命になっている現状は、苦しみだけでしかない。それでも畠さんは、10年先20年先を見据え、必死に前を向く――。
(記事内写真:すべて著者撮影)
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