2024年11月22日(金)

ルポ・被災農家の「いま」

2012年9月26日

 「放射能の検査機関を変えるべきだと思いました。行政の検査機関に委託していたのですが、今、多くの国民は、国や行政に不信感を抱いています。彼らが不正をしているとは思いませんが、その数値を不審に思うお客様がいると考えられる以上、変える必要があった。それで市民が実施する検査機関に委託することにしたんです」

 数値の公表の仕方も、変更した。現在、県などでは4~5ベクレルを最低下限値として、放射能検査を行っており、最低下限値以下の場合「不検出」となる。一方、同園の場合、冒頭で紹介したように、最低下限値を0.38ベクレルなどにしているため、「1ベクレル」などと数値がはっきりあらわれる。

 「お客様の中には『不検出』の意味を深く理解していない方もいらっしゃいます。そうした方は、『1ベクレル』と見ることで、当園のリンゴが『不検出』よりも悪い状況だと誤解する可能性が高い。そのため一般的な公表は、最低下限値4ベクレル程度にして『不検出』と表示し、より詳しい数値を希望するお客様には、ホームページ上で詳しく載せる2段構えにしました」

 ホームページもリニューアルした。これまでは畠さん自身がサイト構築を行っていたが、プロに作り直してもらったのだ。素人が作ったサイトに数値を載せても、信憑性に欠けると判断したからである。

除染に消極的な行政
賠償金請求にも苦労

 放射性物質を減らす取り組みとしては、新たに「果樹の除染」も行ったが、行政が消極的で、実施するまで苦労した。

 福島市のJA新福島が試験を行った結果、木の幹を高圧洗浄機で洗い流すと相当の効果があることが判明。福島市が予算を取り、JA新福島が窓口となり、福島市の各農家による果樹の除染が実施された。各農家はJAから労働賃金を時給換算で受け取った。この方策に有効性を感じた畠さんは、新地町に出向き、予算を取るように直談判。しかしまったく応じてくれなかったのである。

 「『新地町は放射線量が低いから大丈夫』っていうんです。冗談じゃない。地元の農産物が売れていない状況のなか、町が先導し、汚染された町を少しでも綺麗にするために、一円でも多く東京電力に請求していこうという姿勢が大事なのに」

 業を煮やした畠さんは、知り合いの町会議員に相談し、町長にかけあってもらい、ようやく新地町は重い腰をあげた。

 通常のリンゴ栽培のほか、果樹の除染も行うといったハードワークのなか、もう一つ、東京電力に賠償金を求める請求も行う必要があった。


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