数値を公開し、お客さんに判断を委ねる
相馬郡新地町は、放射線量が比較的低く、果樹の栽培自粛はなかったが、畠さんは、放射性物質の吸収を少しでも抑制させるための方策を講じることは必要不可欠だと感じた。そこで積極的に「情報収集」を行い、各種研究機関が発表するなかで、ゼオライトの散布やカリウム肥料の追肥など、放射性セシウムの吸収に効果があると思われることは試していった。
通常、こうした技術は長い年月をかけて実験を行い、実用化となる。まだ実験段階といえる技術を採用することに、畠さんは不安も覚えたが「たとえ果実に悪影響が出ても、その経験は来年、再来年にいきる」と前を向いた。
こうした努力も手伝い、11年シーズン直前、栽培するリンゴは1キログラムあたり10ベクレルを下回った。それを見て11年、リンゴを通常通り販売することに決めた。その際、肝に銘じたことがある。それは「数値を隠さず公開する」ということだ。
「基準値を下回れば、それでOKとして、臭いものには蓋をするではありませんが、一切触れないでおこうとする風潮が強いんですよ。でも、それって隠していると捉えられてしまう可能性がある。私は、数値を公開し、あとはお客様の判断に委ねることにしました」
また住所の分かるお客さんには、数値などを載せたDMを送った。これは自らの無事を伝える意味もあった。
「うちの農園は山の上にあるのですが、相馬ということで、津波の被害に遭ったと思い込んでいる方もいました。何もアクションを起こさなければ、そうした方々は、自然に離れていってしまうものです。DMを出せば、消息を知らせることができます」
しかし11年シーズンの出だしは最悪だった。通常であれば、その日に収穫した分は、ほぼ売り切れになるのだが、その多くが売れ残り、破棄することとなった。
「獲り立てのリンゴが一番美味しいので、うちでは冷蔵保存は一切していないんです。一時はどうなるかと背筋が寒くなりました」
しかし地元の新聞に取り組みが公開され、さらに数値を隠さずに公開するスタンスが受け入れられていくと、売上げは少しずつ回復。結局、通常の70%の売上げでシーズンを終えた。
HPもリニューアル
数値の公表の仕方にも工夫を
そして12年シーズン。畠さんは前年の取り組みを振り返り、改善すべき点を探っていった。