
米黒人男性ジョージ・フロイドさんに対する殺人罪などで起訴された元警官デレク・チョーヴィン被告(45)の裁判で、ミネアポリス市警のトップが5日、被告の制圧行為は市警の方針に反するものだったと証言した。
審理6日目となったこの日の公判では、ミネアポリス市警のメダリア・アラドンド本部長が証人となった。
本部長は、チョーヴィン被告がフロイドさんの首に膝を乗せて制圧したことについて、「間違いなく私たちの倫理や価値観に合うものではない」と述べた。
本部長は昨年5月のフロイドさん死亡事件からまもなく、チョーヴィン被告と、事件に関わった警官3人を解任している。
殺人や故殺の罪に問われているチョーヴィン被告は、無罪を主張している。裁判は1カ月以上続くとみられている。
本部長の証言
アラドンド本部長は公判で、チョーヴィン被告による制圧行動について、フロイドさんが抵抗しなくなった時点で中止すべきだったし、「(フロイドさんが)苦しみ始めた時点では絶対に」止めるべきだったと述べた。
また、フロイドさんが反応しなくなってからも制圧が続けられたのは、私たちの訓練内容や方針とはまったく異なり、紛れもなく、私たちの倫理や価値観にも合わない」と証言した。
さらに、警官が偽札使用の容疑者を拘束するのは異例のことだと説明。威力行使で制圧するより、対話による解決が常に望ましいと述べた。
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被告側のエリック・ネルソン弁護士は、「警官が銃を取り出し、言うことを聞かなければ武器を使うと告げなくてはならない場合もある」と主張。現場で武器を見せることについて、アランドンド本部長の考えを聞いた。チョーヴィン被告は事件当時、コショウスプレーを手にし、傍観者に見せていた。
本部長は、容疑者を引き下がらせるために武器を示すことは警察の方針に沿うものだと答えた。
続いてネルソン弁護士は、アラドンド本部長に、事件当時の異なる角度からの映像を見せた。本部長は、救急隊が現場に到着する直前、チョーヴィン被告がフロイドさんの首の上に置いていた膝を肩甲骨の上に移したように見えると述べた。
アラドンド本部長は、2017年にミネアポリス市警初の黒人本部長に就任。フロイドさん死亡事件後の昨年6月には、警官の訓練が不足しているとの見方を否定し、フロイドさんの死は「殺人」だと述べている。
死因をめぐって
この日の公判では、フロイドさんの死亡判定をしたブラッドフォード・ワンクヒード・ランゲンフェルド医師も証人となり、死因は窒息だったと考えていると述べた。
検察は、フロイドさんは窒息死したと示唆している。しかし検視官は、フロイドさんは「心肺停止」で死亡したと結論づけている。
チョーヴィン被告の弁護団は、フロイドさんが薬物を使用していたとされることや、心臓に基礎疾患があったことが死に影響したと主張している。
これまでの裁判では、救急隊員2人が、現場に到着した際にフロイドさんに脈はなく、呼吸もなかったように見えたと証言している。
なぜこの事件が重要なのか
助けてくれと懇願するアフリカ系男性の首を、白人警官が膝で長時間押さえつけ、やがて男性がぐったりする様子を写した映像は、世界中で激しい怒りを巻き起こし、アメリカ全土のほか世界各地で人種差別や警察暴力に抗議するデモが相次いだ。
フロイドさんの死の前からアメリカでは、アフリカ系市民が警官によって死亡する事件が相次いでいた。
バラク・オバマ元大統領は、一連のデモは「警察慣行や司法制度全般を改善しようと何十年も続いた取り組みが失敗し続けてきたことへの、もっともないらだち」の表れだと話していた。
アメリカでは、警官に撃たれて死亡する被害者のうちアフリカ系市民の割合が突出して多く、薬物事件で逮捕されるアフリカ系市民の割合も同様に多い。また白人市民に比べて実刑判決を受ける確率は5倍に達する。
一方で、容疑者が逮捕時に死亡しても警官が起訴される割合は少なく、ましてや有罪判決が出ることは珍しい。それだけに、今回のこの裁判はアメリカの刑事司法制度がこのような事案を今後どう扱うか、方向性を示す重要判例になると、注目されている。