2024年5月7日(火)

BBC News

2024年4月26日

米ニューヨーク州控訴裁判所は25日、米ハリウッドの大物映画プロデューサーだったハーヴィー・ワインスティーン受刑者(72)の性的暴行事件について、裁判で証人尋問に問題があったとして、2020年の一審の有罪判決を破棄した。同被告は別の裁判でも有罪となり服役している。

ワインスティーン受刑者の事件は、性暴力の被害を告発する「MeToo(私も)」運動のきっかけとなった。

裁判所は、一審で起訴の対象となった被害者ではない告発者の証言が認められており、同被告が公正な裁判を受けていなかったと指摘。過去の行動に対して同被告が不当に裁かれたことを意味するとして再審を求めた。

判事7人のうち4人が判決の破棄を支持した。裁判所は、「(裁判の)基礎となる犯罪行為の被害を訴えている人以外の人物が受けたとする性的行為に関する証言が、そうした行為が起訴の対象になっていないにもかかわらず、誤って認められた」と指摘した。

また、一審の裁判官がワインスティーン受刑者に「非常に偏見に満ちた」方法で反対尋問をさせ、誤りを重ねたとした。

「これらの重大な誤りに対する救済手段は、再審することだ」

判決破棄に反対したマデリン・シンガス判事は、今回の判断によって「この法廷は、刑事司法制度のために闘ってきた性暴力を生き延びたサバイバーたちの着実な進歩を妨げ続けることになる」と述べた。

被害者団体「沈黙を破った人たち」(The Silence Breakers)は、有罪判決の破棄は「失望させる、非常に不当な」判断だとした。被害者側の弁護士は再審の判断は「飛躍的後退」で「悲劇的」だと述べた。

一方で、ワインスティーン受刑者の弁護人アーサー・アイダラ氏は、法制度の勝利だとたたえた。

「この社会には、いまも非常に人気のない人々がいるが、それでも我々は彼らに公平に法律を適用しなければならない」と、アイダラ弁護士はニューヨーク市での記者会見で述べた。

「我々の後ろにあるこの裁判所で開かれたあの裁判では、ハーヴィー・ワインスティーンに公平に法律が適用されていなかった」

米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューの中で、アイダラ氏は今回の判断は「ニューヨーク州のすべての刑事被告人にとっての」勝利だと語った。

原告側の反応

被害を訴えた8人の代理人を務めたダグラス・ウィグダー弁護士は、「悲劇的」な判断で、「性暴力行為の責任を問ううえで大きな後退」だと述べた。

「裁判所は日常的に、起訴の対象ではないほかの行為の証拠を認めている。(中略)陪審員たちはこの証言の妥当性について指導を受けていた」とし、「被害者たちはまた新たな裁判に耐えなければならなくなる」と付け加えた。

ワインスティーン受刑者から被害を受けた6人の弁護を担当したリンジー・ゴールドブラム氏は、罪状と直接関係のない証人の証言を認めたことに対する裁判所の指摘は、今後の裁判にダメージをあたえる「飛躍的後退」だと述べた。

そして、証人たちには「裁判に参加して個人的に得るものは何もなかった。多くの苦しみを味わった何十人もの女性たちの声を代弁することが、彼女たちの唯一の目的だった」とした。

検察側の重要証人ミミ・ヘイリー氏の弁護を担当したグロリア・オルレッド氏は、「証言の過程はミミにとって過酷で、再びトラウマを与えるものだったとしても」依頼人のヘイリー氏は新たな裁判でまた証言することを検討するつもりだと述べた。

被害者団体「沈黙を破った人たち」は、裁判所の判断は「私たちが経験したことや真実の正当性を弱めるものではなく、単なる後退にすぎない。私たちは力強く立ち向かい続け、変化がもたらされるよう主張し続ける。私たちはあらゆる場所にいるサバイバーの正義のために闘い続ける」とした。

2件の裁判で有罪

ワインスティーン受刑者に対する告発は、2017年10月の米紙ニューヨーク・タイムズの報道をきっかけに始まった。

同受刑者は2件の裁判に直面した。2020年にはニューヨークの裁判所が、元製作アシスタントのミミ・ヘイリー氏に2006年に性的暴行をした罪と、元女優ジェシカ・マン氏を2013年を強姦した罪で禁錮23年の実刑判決を出した

昨年にはロサンゼルスの裁判所が、2013年2月にイタリア映画祭に出席するためロサンゼルスを訪れていたモデル兼女優をレイプした罪で禁錮16年の刑を言い渡した。この有罪判決は、今回のニューヨーク州控訴裁判所の判断の影響を受けない。

ワインスティーン受刑者は、イギリスでも2件の強制わいせつ罪に問われている。

同受刑者は現在、ニューヨーク州のモホーク矯正施設に収監されている。

今後、ニューヨーク州で裁判のやり直しをするかどうかは、ニューヨーク・マンハッタン地区検察のアルヴィン・ブラッグ検事に委ねられる。

ブラッグ検事の広報担当エミリー・タトル氏は、「我々はこの裁判をやり直すために全力を尽くし、性的暴行のサバイバーに対する我々のコミットメントがゆるがないよう、今後も維持していく」と述べた。

(英語記事 Harvey Weinstein's 2020 rape conviction overturned in New York

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cg3lr3edr1po


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