2024年5月2日(木)

古希バックパッカー海外放浪記

2024年1月21日

『2023.11.11~12.28 47日間 総費用22万円(航空券8万7000円含む)』

校長先生もアルバイトしないと生活できない

シーギリヤ・ロック。岩山の頂上に王宮跡がある。傾斜のキツイ階段は途中 から梯子になり下を見るのが怖い。ちなみに入場料は外国人は30ドル、ドル現金またはクレカ払いのみ

 急峻な岩山の頂上に狂気の王が築いた世界遺産の王宮城(シーギリヤ・ロック)で知られるシーギリヤは地方の村落である。村の中心部にシーギリヤ・カレッジ(Sigiriya College) なる建物があった。日本の小学校と中学校を併せた9年制の公立学校だ。スリランカ英語ではcollegeはこのような学校一般を意味するようだ。

 校長先生に概要を伺ってから副校長に校内を案内してもらった。やはり政府の予算不足で学校を維持する費用は国内外の慈善団体の寄付で賄っているという。副校長によると教師の給与も据え置かれ猛烈なインフレで物価が高騰するなかで校長以下教師全員が何らかの副業を掛け持ちして生活を維持しているとの説明。

シーギリヤの公立学校の校舎。まじかで見るとかなり傷んでいる。数年前には移動中の野生の像の群れに踏まれ一部倒壊。再建は欧州の慈善団体からの寄付で賄った

 副校長自身は放課後には地主の畑を耕し、夕刻は自宅で私塾を開いて英語の特訓をしているという。校長ですら月収3万5000円であり副校長は3万円足らずなのでアルバイトして糊口を凌いでいる有様と嘆いた。(注)本稿では読者が理解しやすいように現地通貨の値段・価格をすべて1ルピー=0.5円で換算して日本円で表示する。

 ちなみにスリランカの物価は卵一つ30円、コカ・コーラ400ミリリットル85円、国産ビール大瓶250円、カレーパン50~60円(日本のカレーパンより小さい)、卵野菜ロールパン60~80円、ミルクティー1杯85円、市内バス20円~45円、チキンカレーライス300~500円(鶏肉は30グラムくらいの小さな塊一つのみ)、袋ラーメン5個入り(日本より小さいサイズ)320円、紅茶ティーバッグ(25袋入り)150~180円……であり、日本と比較して安いのは公共交通機関くらいで食品類は余り割安感が感じられない水準である。これでは月収3万円程度で家族を養うことは絶対不可能だ。

 ちなみにシーギリヤで投宿したゲストハウスのボーイ兼コックは英語も上手で働き者で気が利くので親しくなった。彼は上記の公立学校の教師だった。週日は学校が午後2時頃終わるので午後3時から深夜までゲストハウスで勤務。学校のない土日祝日は早朝から深夜までゲストハウスで働いていた。

下級公務員は辛いよ、休日は三輪車タクシーでアルバイト

 湖の周囲にホテルや別荘が点在する高原都市キャンディーは紅茶栽培の中心地であり英国植民地時代に英国人の避暑地として発展した。11月27日は祝日で湖を巡る遊歩道も賑わっていた。朝方遊歩道を散策していると日本語で呼びかけられた。振り返ると貧相な風体の三輪タクシーの運転手が日本語と英語のチャンポンで市内観光1日コースを2500円で主要な名所旧跡を全て案内するという。

 彼は日本人の放浪ジジイの気を惹こうと必死である。農業省の職員でJICAと仕事の付き合いがあるので多少の日本語を話すと。今日は非番なのでアルバイトで三輪タクシー運転手をしていると農業省職員身分証を提示。さらに放浪ジジイを信用させようとスマホの日本人観光客の写真を見せる。日本人の若い女性と彼女の子供が像の水浴びを見ている写真とか中年カップルが紅茶工場を見学している写真とか。

 キャンディーのいわゆる観光名所は興味がなかったので「今日はゆっくり散歩する予定だ」とお断りすると突然泣き顔になった。農業省の月給2万5000円では妻子5人を養うのは無理だと必死の形相で泣きを入れた。半日コースで4時間ほど案内するが、特別に1000円に値引きするのでご慈悲をお願いすると放浪ジジイに手を合わせる。相場水準からかなり大幅な値引きだがジジイ一人が三輪タクシーで観光するのは味気ないので丁重にお断りした。

学校に行けない子どもたち、食べ物がない子どもたち

 スリランカは5歳から16歳までの小学校5年+初等中学4年+高等中学3年=計12年が義務教育である。12月12日にヌワラ・エリアからローカルバスを乗り継いでコーヒー農園を見学。帰路マリア・タウンという山村のカトリック系9年制男女共学公立学校の若い女性教師とバスで一緒になった。彼女は英語・シンハラ語・タミル語の教師。この地域はポルトガル植民地時代に宣教師が熱心に布教したのでカトリック教徒が多いとか興味深い歴史を拝聴。

 彼女の話で気になったのが過去数年徐々に学校を休みがちになる生徒が増えつつあるということだ。農繁期に親の畑仕事の手伝いなどのために一時的に学校に来られない子供は以前からも一定数いたが、最近は数が増えつつあり、また欠席日数も多くなる傾向があるという。

 スリランカの小中学校では8時前に始業して10時半の軽食休憩を挟み1時半終業という時間割が標準である。彼女によると軽食休憩時間に食べ物がない子供も増えてきたという。スリランカの現在の教育体系では一般的に地方の9年制の公立学校は貧困家庭の子弟が多く、さらに入試制度の壁があるため高校・大学への進学の道が閉ざされている(委細はスリランカ教育事情の別編にて)。

 おんぼろバスにすし詰めで乗っている明るく無邪気で元気そうに見える子供たちの貧困を想像して気持ちが重くなった。

マリア・タウンのキリスト系公立学校の女性教師と。通学する生徒で満員のなか彼女と放浪ジジイのために生徒たちが席を譲ってくれた

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