牛丼にジーンズに……
過熱した安売り競争
─平成は、商人や消費者の「ものさし」が大きく歪んだ時代だと言えます。
笹井 その通りで、平成は安売り競争が過熱した時代でもありました。そこで想起されるのは、2000年代初期に起きた「牛丼戦争」という名の値下げ合戦で、メディアも盛んに報じました。まず、松屋が牛丼を290円で販売し、その動きに追随した吉野家は280円に値下げしました。
食品業界だけではありません。アパレル業界でも、09年にGUがジーンズを990円で販売すると、イトーヨーカ堂やイオンといった総合スーパーが最低価格を競うように追随しました。最終的にドン・キホーテが690円でジーンズを販売し、低価格競争に終止符を打ちました。同社の安田隆夫社長(当時)は「こんな競争は無意味」と言っていたのを覚えています。
平成のデフレの時代、商人は「安さを追求することがお客様のため」と勘違いし、一方で消費者も「安さを求める」傾向が強まりました。
商業経営専門誌『商業界』で現場取材を重ね、2007年より編集長。幅広い業種や企業を取材し、その数は4000社を超える。20年に商い未来研究所を設立。本誌連載「商いのレッスン」を担当。
島村 食品スキャンダルラッシュも印象的です。00年には雪印乳業(現雪印メグミルク)の乳製品による集団中毒事件、08年には中国の天洋食品から輸入していた冷凍餃子から殺虫剤が検出された「毒ギョーザ事件」、その他、賞味期限や消費期限が改ざんされる事件などが次々に起きました。毒入りギョーザ事件は労働者の劣悪な待遇が原因でしたが、目に見えないところで誰かが犠牲になっていること、そして、そのツケは私たち自身が払わされていることが明らかになりました。
01年には牛海綿状脳症(BSE)をめぐって食品偽装も起こり、食肉業界の裏側も明らかになりました。一番ショックだったのは、テレビのドキュメンタリー番組で、ある精肉店の店主が、一度も生産者を訪ねたことはなかったし、牛が何を食べて育っているかも知らなかったという事実です。それが多数派でもありました。人生を懸ける仕事なのに、その無責任さの延長線上に偽造やごまかし、倫理観の欠落もあったと思います。
東京藝術大学美術学部芸術学科卒業後、イタリアへ留学。『スローフードな人生!』(新潮社)が日本のスローフード運動の先駆けになる。著書に『シチリアの奇跡』(新潮新書)など多数。