2024年7月27日(土)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年5月6日

スローフード運動は
「関係性の修復運動」

笹井 産地偽装も続発しました。07年には船場吉兆の大阪本店で佐賀県産の和牛を「但馬牛」、ブロイラーを「地鶏」と偽装表示していたことが判明しました。直近では22年にアサリの産地偽装問題が世間を賑わせました。

 これらが起こる理由の一つには、商道徳が衰退していることがあると思います。商業者の倫理観が欠落し、儲けることが大義名分になってしまっているからです。また、経済の規模が拡大していくと、生産者と消費者、価値を伝達する小売業者の三者間で、お互いの顔が見えにくくなります。「顔が見える関係性」ができていれば不正の抑止につながりますが、平成になってそれが少しずつ失われてしまったことは、さまざまな偽装がはびこった一因でしょう。

島村 イタリア国内を巡り、取材をすると、スローフードとは、単なるファストフードへの反対運動ではなく、食べものがつなぐ「関係性の修復運動」であることが分かりました。均質化されていく商店街と消費者も日々の食でつながっています。消費者が何も考えずに買い物をすれば、その関係性は壊れていき、生産者もどんどん減っていきます。その関係を日々の食卓で修復しましょうという考え方がスローフードの哲学でした。

 これからは、まるおかのような小売店を、消費者や地域のものさしをつくるパワースポットにして、生産者を食べ支えていく時代なのだと思います。

─生産者は果てしなく続く「安売り競争」をどう見ているのでしょうか。

笹井 自分が一生懸命つくったものが買い叩かれて店頭に並んだり、農協に集約されて一緒くたにして売られたりすることに対して、諦めの感情を抱いています。農業生産者が誇りを持てなくなり、事業を継ごうという人が減りつつあるように感じます。

丸岡 私共のスーパーが、農業法人グリンリーフ(群馬県昭和村)と取引を始める際、「売りたい価格で買い取りますよ」と澤浦彰治社長に伝えると、とても驚かれました。生産者の言い値で買い取るスーパーがなく、「買い叩かれることが当たり前」という商習慣が染みついてしまっていたからです。

丸岡 守(Mamoru Maruoka)まるおか 会長
1944年生まれ。68年、家業の食料品店をスーパーマーケットに業態転換。98年に優良経営食料品小売店として最高賞の「農林水産大臣賞」受賞。著書に『おいしいものだけを売る』(商業界)。

島村 昨今、議論されている学校給食の無償化も、格差解消を考えれば賛成です。しかし、韓国が地元の農産物を守るために〝ローカルフード条例〟を作ったように、何らかの流通改革が不可欠です。さもなければ、生産者がまた買い叩かれることにつながりかねません。

 むしろ、給食を生産者の出口にすることが一つの解になるかもしれません。例えば、イタリア・ローマの郊外では、給食用の有機農産物を4年先まで契約し、買い取ってくれる自治体があるそうです。生産者は市場の不安定さに左右されずに安心してつくり続けられるから、その地域では農業に若い担い手がいると聞きます。中には、8ヘクタールの農地を広げ、32ヘクタールにした人もいました。農業を未来に向けて育む、持続可能な方法の一つと言えます。

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