土日は休日のトマト工場
高知県における農業のDXでもう一つ、注目に値するのが四万十町にあるトマト農園だ。農園といいながら、露地(畑)ではなく、ハウス内の水耕栽培でやっており、原則として土日は休みだ。通常、農業と言えば植物を相手にしているだけに作物の栽培生産中は休みということは考えづらいが、ITによって環境を常に最適化しているのでこのようなことが可能になるのだ。
他にも、つるの長さを制御することで、作業をする人にとって無理のない姿勢で、トマトを収穫することができるようにもしている。
高知県では、先進的な施設園芸が行われているオランダからビニルハウス内の環境制御技術(温度、湿度、炭酸ガス濃度)を学ぶことで、従来のビニルハウスによる生産方針と比較して収量を約30%向上することを実現している。
今後は、ビニルハウス内の環境制御に加えて、デジタル技術を活用して作物の生理・生育データ(花や実の数、大きさ等)の可視化を実現し、さらには収集したデータをクラウドに集約・一元化することで収量の倍増、産地全体の生産性の向上を目指すデータ駆動型農業の取り組みにも着手している。先進的なDX園芸がここにある。
これらの取り組みは一歩先の農業、いわばアグリテックと言えるであろう。
そのほか、出荷予測のシステムなども、普通に考えると、農家としては自分のノウハウを公開するのは嫌がるものだが、産地全体のレベルをアップさせていくために高知県内で公開しているという。
濱田さんによれば、高知県の産業デジタル化推進課=17人の職員のうち、半分以上が民間企業での勤務経験があるという。異質な職員が集まり、多様性の高い組織だからこそ、新しいことに前向きにチャレンジすることが可能になっているのだろう。
濱田さんは高知県の将来について、「デジタル技術は決して都会だけのものではなく、高知のような地方だからこそ積極的に導入していく必要がある。地場産業にデジタル技術を導入することで生産性の高い産業、稼げる産業にしていきたい。また、産業分野だけではなく、医療や福祉、教育など様々な分野にも導入することで県民の皆様の生活がより便利で豊かなものになるよう、これからも積極的に取り組んでいきたい。」と語る。
高知県はデジタル技術を活用した課題解決型の産業創出の取り組みが評価され、今年2月に厳しい選考で知られる公益社団法人企業情報化協会「2020年度IT最優秀賞」に選出された。自治体としては2007年の市川市役所以来となる快挙である。
高知県が抱える課題を解決のために推進しているITとの連動による様々な取り組みやDXは、先進的な成功事例としてだけでなく、人口減少や高齢化、農業人口の減少など、高知県だけでなく日本各地が直面する厳しい状況を打破するための一つの解になり得るものとして注目したい。
また、このような取り組みの実現には、地域とその将来を真剣に考え、柔軟な発想と手法で新しい物事に果敢にチャレンジする「人」の存在が不可欠である。その意味で、地元を愛し、進取の精神に富み、目標に向かって突き進む、濱田さんをはじめとする高知県の方々への期待は大きい。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。