2024年12月22日(日)

DXの正体

2021年4月17日

(mitumal/gettyimages)

 日本の地方都市は、人口減少、高齢化などでどこも大変だが、その中でも特に厳しい状況に直面している県の一つが「高知県」だ。人口は約72.8万人で全国45位。1990年に全国ではじめて人口自然減(死亡者数が出生数を上回る状態)となった。人口水準は、戦前の1920年代に近づきつつあり、高齢化率は32.5%と、全国で2番目に高い。

 また、県庁所在地のでは高知市に約34万人(全体の46%)が集中する一方で、県内34市町村のうち19町村(56%)で人口が1万人未満、さらにそのうち13町村は5000人未満となっている。ガソリンスタンドが1カ所しかない町村が4つ、タクシー会社ゼロが2村、1社のみが11町村、複式学級(別の学年の子どもが一緒に授業を受ける)がある小学校は、190校中73校と、約40%にのぼる。

 「課題先進県」とも言える高知県だが、今後予想される人口動態で人口増が見通しにくいなか、いかに人口を減らさないようにするか、いかに維持していくか、その対策を練っている。その切り札となるのが、「産業振興計画」だ。高知県の経済を根本から元気にするためのトータルプランとして、2009年から「地産外商」を柱にして経済の活性化に向けた取り組みをスタートさせた。

 「地産外商」のコンセプトは、活力のある県外市場に打って出ること=「外商の強化」、外商ができるモノ、コトの強化=「地産の強化」の2つだ。これによって、地域ごとに若い人たちが志を持って、県内に働く場所を作るようにするというもの。

 このなかで大きなポイントとして注目されたのが、高知県の代名詞でもある「課題」だった。つまり、この課題を解決することこそが、新しい産業を創出することができるのではないか?というコンセプトだ。

 これに基づいて2016年から、「課題解決型産業創出」(課題ドリブン型のプロダクト開発)の取り組みがスタートした。①様々な分野の課題を抽出し、②先端デジタル技術を活用したプロダクトを開発し、③それによって開発されたプロダクトによる「課題解決」と「販売拡大による外貨獲得(地産外商)」を図るというものだ。

 このプロジェクトを推進する、高知県商工労働部産業デジタル化推進課長の濱田憲司さんに話を聞いた(注:課の名称が2021年4月から「産業創造課」から「産業デジタル化推進課」に改称)。

筆者(左)と濱田氏

 この取り組みを推進する母体として「高知県IoT推進ラボ研究会」が立ち上げられた。プロダクト開発のプレーヤーになる企業の集まりだ。5年間で会員企業は4倍の313社に増加し、そのうち114社は県外企業だ。業種は情報通信業(147社)、製造業(40社)、その他(97社)、教育・研究機関(14社・団体)、個人(15人)となっている(2021年1月末時点)。

 業務フローとしては、①県内の様々な分野から課題を抽出、②関係者で協議を行い、課題を評価・選別、③説明書を作成(選別した課題のみ)、④課題説明会を開催(ラボ研究会会員とのマッチング)、⑤マッチングの成立、プロジェクト化、⑥補助金による開発支援、⑦プロダクトの完成、というものだ。

 これまでの実績は、「課題抽出」が98件、マッチング中が49件、開発中(断念含む)38件、プロダクト完成が11件となっている。

 実証実験・製品開発中の主なプロジェクトとしては、下記のようなものがある。

「農業」

  • 新規就農者向けの遠隔指導・助言システム
  • AI等を活用した施設園芸の生育診断・予測
  • ゆず熟練農業者の栽培管理技術の標準化と適正着果
  • 篤農家の栽培管理技術(匠の技)の次世代への伝承

「水産」

  • 漁獲高のリアルタイム把握およびデータ蓄積

 などだ。完成品については下記の通りだ。

「農業」

  • 農業肥料使用履歴管理システム

「水産業」

  • 養殖における自動給餌システム

「林業」

  • 作業員の安全確認および作業履歴の蓄積システム

「医療・福祉」

  • 通所介護現場の介護職員の事務作業の省力化アプリ

「教育」

  • 小学校登下校管理システム

 などだ。


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