資源景気は、狭義の鉱山開発にとどまらない。労働者たちが必要とする住居や道路、通信、消費財供給などの周辺ビジネスも発生する。また、鉱物の輸送インフラとして鉄道新設の計画も複数公表されている。各国からビジネス進出が相次ぎ、外国からの投資総額は06年の3億6600万ドルから、11年には49億8600万ドルと13倍強に増えた。貿易収支は車やガソリンの輸入増を受けて赤字だが、それを上回る勢いで外資が流入する。モンゴルに着目する投資家の間では「この国の成長は当分続く」との見方が強い。
輸出の94%は中国に向かう
ただ、こうした発展は、現実には中国の景気に支えられてきた。国家統計局によると、12年上半期は、輸出先の実に94%を中国が占めた。中国は輸入でも、ロシアに次いで2位。ロシアと中国の差はほとんどなく、この2カ国で輸入全体の5割強を占める。
(出典)ジェトロ
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輸出品目全体の9割を占めるのが石炭をはじめとする鉱物だ。多くの鉱床は国の南部、すなわち中国の近くに位置する。トラックでわずか数百キロの距離だ。端的に言えば、「鉱物資源を採って中国に輸出する」のが今のモンゴル経済の根幹部なのである。
経済的な中国依存の中、国民感情はどうなのか。現実として、モンゴル人は嫌中意識が強いようだ。歴史から来るものや、経済的に侵略されているという被害者意識からだ。
(出典)ジェトロ
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モンゴルに中国人が少ないわけではない。むしろ逆だ。外国人労働者として政府が把握している人数のうち、12年上半期は78・8%が中国人である(2位は北朝鮮人の5・5%)。しかし筆者はウランバートル市内の飲食店や観光地で、中国語らしき会話を耳にすることが一度もなかった。取材で知り合ったモンゴル人女性は「中国人自身、この街で派手に振る舞うと危険だとわかっています。身を守るために目立たないようにしているのですよ」と解説する。中国人への差別的な落書き、暴力事件などは日常茶飯事だという。
その一方で、食品、日用品など身の回りのほぼ全分野に、中国製品が入り込んでいる。市場や露店に並ぶ雑貨の大半は、モンゴル人が列車で中国に行って調達してきた商品だという。実際、衣類や雑貨の多くに、中国語の表示が付く。市内のある雑貨店主は、「中国の仕入れ先は、行って注文すれば、モンゴル行きの列車に荷物を積み込むところまでやってくれる」と話す。南の国境を越えて中国の街・二連浩特(エレンホト)に入ると、モンゴル商人が母国語で買い付けできるマーケットが広がり、常ににぎわっているという。