世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年5月26日

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 米軍のアフガンからの全面撤退、しかも9月11日までとする期限を切った無条件の完全撤退というバイデンの決定については、間違いだとする反対論が多数のようである。撤退により、いずれアフガンの大部分はタリバンの掌中に帰し、再び国際テロの温床となり米国に対する脅威となる。タリバンの苛烈な支配の下で市民の自由と女性の権利の進展というこれまでの成果も失われる。せめて小規模の部隊を残せば大きくないコストで惨事は避けられる、というのが、その論拠である。ブリンケンが去る3月に打ち出したアフガン政府とタリバンの間の和解合意に向けての外交努力は頓挫した。米軍の撤退が確実になった以上、タリバンには米国の傀儡と見做すアフガン政府と誠実に交渉するインセンティブはなくなる。

 しかし、バイデンの判断を左右した大きな要因は、2002年1月、はじめてアフガニスタンを訪問した際に(バイデンは当時は上院外交委員会委員長)、イスラムの部族社会という特異な立ち遅れた社会を目撃して米国には手に余るとの強烈な印象を得たことにあるようである。昨年2月のドーハ合意ではタリバンがアルカイダと絶縁しアフガニスタンが国際テロの温床となることを阻止することを完全撤退の条件としていたが、バイデンはこの条件を無視して「際限のない戦争」を終わらせることを優先した。「撤退のための理想的な条件を作ることを希望し異なる結果を期待してアフガニスタンにおける軍事的プレゼンスを延長しあるいは拡大するサイクルを継続は出来ない」と彼は4月14日の演説で述べたが、彼の気持ちを端的に示している。

 バイデンはこの決定を正当化する理由として中国による厳しい挑戦にも簡単ではあるが言及している。日本の立場からは、この一事を以てこの決定を歓迎してしかるべきである。グローバルな観点から最優先とされるべきは中国への対抗であり、アフガニスタンに資源を削がれることは極力避け、完全撤退に伴うリスクを許容することは止むを得ない選択と言うべきである。

 他方、米軍のアフガン撤退を巡る課題として、テロの脅威の監視をどうするかという問題は無視できない。この観点から近隣諸国との協力の必要性はあるだろう。バイデンの演説はこの関連での言及、とりわけパキスタンとの関係についての言及を全く欠いている。仮に、タリバンが支配するに至れば、インドとの関係で「戦略的縦深性」を重視するパキスタンにとって、20年の年月を経て友好的な政権をカブールに得ることになる。しかし、必ずしも、それで「めでたし」とはならない。アフガニスタンの内戦と混乱が難民の流入を招く。タリバンの成功は、パキスタンのタリバンなどテロ・グループの活動を刺激する。混乱は国境を超えて波及して過激主義を助長しパキスタンを不安定化しかねない。そのような情勢の進展にインドが無関心でいられるはずはない。

 バイデン政権は、パキスタンをどう扱おうとしているのかよく分からない。バイデンは未だパキスタンのイムラン・カーン首相と電話会談をしていない。4月の気候変動サミットには、インドとバングラデシュの首脳は招待したが、イムラン・カーンは招待しなかった。中国に傾斜するパキスタンのバイデン政権にとってのプライオリティは低いということかも知れないが、アフガニスタンからの撤退という新たな情勢を前に、テロの脅威の監視の観点を含め、パキスタンとの関係をどうするかの整理は必要であろう。これまでアフガニスタン駐留米軍への補給路として、あるいはタリバンの隠れ家として重要であったパキスタンは、用済みという訳にも行かないであろう。

  
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