中東を読み解く

2021年3月6日

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 ローマ教皇フランシスコのイラク訪問が3月5日に開始される中、駐留米軍にロケット弾攻撃が行われるなどイラクを中心にきな臭さが漂っている。バイデン大統領は先月、シリア東部で政権発足後初の軍事行動に踏み切ったが、きちんとした「レッドライン」(超えてはならない一線)を設定していないことが武装勢力の攻撃を誘発しているとの批判も出ている。

イラクに到着したローマ教皇フランチェスコ(REUTERS/AFLO)

イランとの対話配慮し報復に戸惑い?

 今回の不穏な空気の高まりは先月15日、イラク北部アルビルの米軍駐屯基地への攻撃が発端だ。基地周辺に14発のロケット弾が撃ち込まれ、米軍関係の民間業者1人が死亡し、米軍兵士ら6人が負傷した。攻撃後、「血の守護者」というほとんど無名の組織が犯行声明を出した。同組織は昨年夏にも米軍の車列を攻撃している。

 バイデン大統領は10日後の25日にイラク国境に近接するシリア東部の武装組織の拠点を報復空爆、人権団体によると、22人を殺害した。空爆に参加したのは2機のF15で7発のミサイルを発射した。米紙によると、2回目の攻撃も予定されていたが、攻撃対象の建物に婦女子がいることが判明し、直前になって中止となった。攻撃は事前にロシアにも通告された。

 攻撃を受けた武装組織はイラン支援の民兵組織「カタイブ・ヒズボラ」(神の党旅団)。同組織の指導者は昨年1月、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍のドローンで暗殺された際、同じ車に乗っていて死亡した。アルビルの米軍攻撃の背後に「カタイブ・ヒズボラ」やイランが介在していたかは明らかではないが、バイデン大統領は「罰を受けずには済まない。気を付けろ」とイランに警告した。イランは国際法違反だと空爆を非難した。

 しかし、米国の爆撃は抑止効果がなかった。今月3日、米軍が駐留するイラク中西部アンバル州の「アイン・アル・アサド」空軍基地に10発のロケット弾が撃ち込まれ、この際、米国人民間業者が心臓発作を起こして死亡した。ホワイトハウスのサキ報道官はバイデン大統領が側近らと攻撃について協議したことを明らかにしたが、「必要なら行動する」と述べるにとどまった。

 中東情勢をウオッチしているベイルートの消息筋は「バイデン大統領の動きが鈍い。トランプ前政権と違ってレッドラインを明確に示しておらず、弱腰に映る。イランや武装勢力に誤ったメッセージを与えかねない」と指摘した。確かに前政権は「米国人が1人でも死ぬようなことがあれば報復する」というレッドラインを掲げて米軍などへの攻撃をけん制していた。

 だが、バイデン政権はこうしたレッドラインを示していない。ニューヨーク・タイムズによると、バイデン大統領はイランやその配下の武装組織の敵意を和らげ、外交によって問題の解決を図ることを大きな目標にしているという。国務省報道官は「米国の価値観と国益のために世界に関与していかなければならないが、そうした関与はリスクを伴う」と指摘している。

 イラン核合意への復帰を模索しているバイデン政権はイランがさらなる強硬路線に傾斜しないよう配慮し、イラクなどの武装組織に対する攻撃には慎重に構えているように見える。イラク政府との関係改善も図っており、治安悪化から大幅削減したバグダッドの米大使館の人員を元の水準にまで戻すことを検討している。駐留米軍はトランプ政権下で、2500人にまで縮小されたが、今後さらに削減するかどうかには言及していない。

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