中東を読み解く

2021年2月26日

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 世界最速で新型コロナウイルスのワクチン接種を進めているイスラエルのワクチン外交に批判が高まっている。占領地のパレスチナ人の健康問題よりも、係争の聖地エルサレムをイスラエルの首都と認定した国などへワクチンを供給しているからだ。背景には3月の総選挙に向け、なんとしても得点を稼ぎたいネタニヤフ首相の政治的思惑があると見られている。

(mirsad sarajlic/gettyimages)

捕虜交換にもワクチンを利用

 イスラエルはネタニヤフ首相自身が米製薬大手ファイザーと直談判し、早くからワクチンを確保、既に人口約900万人の4割を超える国民に対し、少なくとも1回の接種を行った。世界的なワクチン争奪戦で、日本などが大きく後れを取る中、先頭を走って接種を進めている上、中東地域でのワクチン生産開始計画について、ファイザーなどと協議を始めたという。

 ワクチンを早期に入手できた理由として、「正規価格の2倍の代金を支払った」「情報機関モサドが動いた」「治験の結果を優先的に提供するという裏契約を製薬会社と結んだ」などとささやかれているが、イスラエル保健省はファイザーのワクチンについて、95%の発症予防効果があると公表し、ワクチンの有用性を実証して見せた。

 しかし、イスラエルは国民への接種を推進する一方で、外国にもワクチンを提供すると発表し、ワクチン外交も進めていることを明らかにした。自国の影響力を拡大するためのワクチン外交は中国やロシアも行っているが、イスラエルはパレスチナ人との対立の争点であるエルサレム問題を政治的に利用しようと図っており、これが人権機関などから批判を招いている。

 イスラエルはワクチンを供給する相手国を明らかにしていないが、地元メディアなどによると、エルサレムをイスラエルの首都として認定する計画を持っているような国がその対象だ。うちチェコにはイスラエルから5000回分のモデルナ製ワクチンが届けられた。チェコは昨年末、外交事務所をエルサレムに開設する計画を発表している。

 ハンガリー、中米グアテマラ、ホンジュラスにも同じ量のワクチンが送られる予定だと伝えられている。ハンガリーはエルサレムに貿易事務所を開くことを公表、グアテマラは米国同様、既にエルサレムに大使館を移転させた。ホンジュラスも大使館の移転計画を発表している。

 イスラエルはまた、敵国のシリアとの間で捕虜交換にもワクチン外交を極秘に使った。ニューヨーク・タイムズによると、不正入国して捕まったイスラエル人女性がこのほど、イスラエルに拘束されていたシリア人の捕虜2人との交換で釈放されたが、イスラエルはこの際、ロシア製ワクチン「スプートニク」を購入し、これを“身代金”代わりにシリアに提供した。ネタニヤフ首相とプーチン・ロシア大統領が取引を協議したとされる。

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