2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2021年2月22日

(AlessandroPhoto/gettyimages)

 バイデン米政権のイラン核合意復帰をめぐって両国の駆け引きが一気に激化した。米側がイランと対話の用意があると発表したのに対し、イランは米国が制裁解除をしない限り、国際原子力機関(IAEA)の抜き打ち核査察を2月23日に停止するとの強行姿勢を変えていない。だが、イラン側はIAEAとの土壇場協議で、「3カ月間の執行猶予」に同意、対話再開へ含みを残した。

イラン懐柔シグナル

 そもそも今回の事態は昨年12月、イラン国会が「2月21日までに制裁が解除されなければ、核濃縮活動の強化とIAEAによる核査察の制限を政府に義務付ける」法案を可決したことに遡る。イラン側は今年1月、ウラン濃縮度を核兵器級に近づける20%に高め、2月15日には核合意の検証措置である「抜き打ち査察」を23日に停止すると一方的に通告した。こうした一連の動きはすべて米国に制裁を解除させるための圧力だ。

 沈黙を守っていたバイデン政権は18日になってやっと、イラン核合意の当事国による会合が開かれれば、米国も参加してイランと対話する用意があることを正式に発表。ブリンケン国務長官が合意当事国の英仏独3カ国外相と会談した。しかし、イラン高官は米国が制裁を解除する動きを示していないことを指摘し、通告通り23日に抜き打ち査察の受け入れを停止すると表明した。

 抜き打ち査察が実施できなければ、核開発の全容を監視することは困難だ。このためIAEAのグロッシ事務局長が20日、急きょテヘラン入りし、サレヒ原子力庁長官と会談した。事務局長によると、会談の結果、23日の停止を翻意させることはできなかったが、「最大3カ月間、必要な確認作業を続ける取り決めに合意できた」という。

 この取り決めの詳細は明らかではないが、抜き打ち査察停止の事実上の「執行猶予」と見られており、イランはこの間に米国との対話が制裁解除につながるよう協議を進めたい思惑のようだ。イラン側は当面、通常の査察については認め、査察官の追放なども行わない方針で、米側にボールを投げ返した形だ。

 イラン側の立場は明解だ。「一方的に核合意を離脱し、制裁を課したのは米国(トランプ前政権)だ。だから合意に復帰するのなら、まずは制裁を解除するのが先決。濃縮度のアップなどの合意違反については制裁が解除されれば、是正する」というのが基本。

 これに対し米国の立場は「最初の一歩はイランが合意を順守することだ。イランが合意を守れば、米国も同様の対応を取る」(ブリンケン国務長官)というもの。どちらが先に譲歩するかの突っ張り合いである。バイデン政権の真の狙いは単に元の合意に復帰することではない。イランによる①弾道ミサイルの開発の中止②シリアやレバノンなど地域の武装組織への援助停止―も盛り込んだより包括的な合意を目指している。

 だが、イラン側にしてみれば、そうした枠組みは核合意とは全くの別物で、受け入れることは到底できまい。バイデン政権が今後、核合意を超えた包括的合意をあくまでも要求するのかは不明だが、イランとの対話の下地を整えるための懐柔シグナルをすでに送っていることは注目に値する。


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