米下院本会議は1月12日、議会襲撃事件を受け、修正憲法25条に基づき、ペンス副大統領に「トランプ大統領の解任」を求める決議を可決した。ペンス氏がこの決議を拒否したため、民主党は大統領の弾劾訴追の審議に入る。だが、こうした政治的な動きの舞台裏では、選挙結果の最終確定をめぐってトランプ、ペンス両氏の亀裂が一気に深刻化、緊張感あふれるドラマが展開されていた。
不和は12月15日に始まった
両氏の確執は12日付のワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどの米メディアによって伝えられた。これらの内幕報道を基に、2人の対決のドラマをたどってみたい。そこには、敗北の選挙結果を覆えそうと、なり振りかまわずペンス氏に圧力を掛け続けるトランプ氏に対し、毅然として抵抗するペンス氏の姿が浮き彫りにされている。
ペンス氏はキリスト教右派福音派の敬虔な信者で、トランプ氏がペンス氏を副大統領に選んだのも、これら宗教票を当て込んだことが大きな理由だった。6期に渡る下院議員の後、中西部インディアナ州知事を務めるという豊富な経験を持つ政治家で、人柄は温厚で冷静、沈着にして泰然と評される人物だ。
逆にトランプ氏は、政治は全くの素人。何事も直感に頼り、感情の起伏が激しい性格。日常的に怒りを爆発させ、この4年間、気に入らないと徹底的に相手をこき下ろし、いじめ抜く性癖を見せつけてきた。セッションズ元司法長官やティラーソン元国務長官らいじめの対象とされて政権を去った要人は枚挙にいとまがない。
しかし、ペンス氏はこうしたガキ大将のような大統領に対し、忠誠を誓い、黒子に徹してきた。傍らには控えているが決して目立たないよう振舞ってきた。時には、トランプ氏の暴言や怒りの緩衝材になり「彼の重要な役割は大統領をいかに怒らせないかということだった」(元退役軍人長官)という。無理難題を押し付けられても従順な姿勢を崩すことがなかった。しかし、そうしたペンス氏が今回、「我慢の限界に達した」(ニューヨーク・タイムズ見出し)。
決定的な対立が始まったのは昨年の12月15日だ。この日は各州の大統領選挙人が公式に民主党のバイデン氏を大統領に選出した日の翌日だ。選挙結果に異議を申し立てる法廷闘争でほぼ全敗していたトランプ氏が次の一手として考えたのが、一般投票で選出された選挙人ではなく、州議会に働きかけてトランプ支持の選挙人を選び、投票に持ち込む試みだった。しかし、これもうまくいかず、結局、選挙人投票でバイデン氏の当選が確定した。このため大統領は15日、最後の手段としてペンス氏を利用することを決断した。
ペンス氏が1月6日議会で、選挙人投票の結果を最終的に承認する議長を務めることに着目、同氏に不正選挙であることを理由にバイデン氏勝利を阻止させようと図ったのだ。このシナリオは顧問弁護士のジュリアーニ氏やナバロ大統領補佐官らが主張していたもので、大統領は「憲法上、ペンス氏には不正に選ばれた選挙人を拒否する権限がある」という説に乗った。この日から連日のように、大統領のペンス氏に対する圧力が始まり、両者の確執が深まった。