2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2021年1月4日

 ニューヨーク・タイムズなどによると、ミラー米国防長官代行は1月1日、ペルシャ湾の米空母ニミッツに、同海域から撤収するよう命じた。イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官暗殺1周年の3日を前に、米イランの軍事的緊張が高まっているが、唐突な決定に様々な憶測が飛び交っている。トランプ政権の任期切れが迫る中、国防総省内の対立を反映したものとの見方が強い。

(Dilok Klaisataporn/gettyimages)

「攻撃切迫」めぐり対立

 米軍はソレイマニ司令官暗殺1周年の機会にイランやその配下のイラク民兵などが米軍や米権益に報復攻撃を仕掛ける恐れがあるとして、これを抑止するためこれまでに、空母ニミッツをペルシャ湾に差し向け、B52戦略爆撃機2機や戦闘機飛行中隊をサウジアラビアなどの基地に派遣、巡航ミサイル「トマホーク」搭載の潜水艦「ジョージア」も急派した。

 こうした米軍の増強に対し、イラン側は挑発行為と強く反発。中東の軍事筋らはトランプ大統領がイラン側と一戦交えて両国の関係をとことん悪化させ、バイデン次期大統領が意欲を見せているイラン核合意への復帰交渉を不可能にすることを狙っているのではないか、とさえ分析していた。イラン側は防空網を強化し、全軍が厳戒態勢を敷いている。

 同紙が米情報機関の情報として伝えるところによると、イランとその配下のイラク民兵組織がソレイマニ司令官暗殺の報復として3日にも米軍などに対する攻撃を準備している可能性があるという。情報機関はイランが短距離ミサイルやドローンをイラクに搬入したとも見ている。またイラクの民兵組織が最近、ソレイマニ司令官が率いていた革命防衛隊コッズ部隊の関係者と会っていたとの情報もある。

 だが、イランの「攻撃が切迫している」という分析については、国防総省内部で意見の対立があるようだ。最初にこの対立を伝えたのはCNNだったが、その後ニューヨーク・タイムズなどが後追いした。情報機関の分析を重視する一派に対し、トランプ大統領から同省に送り込まれた高官らはイランによる攻撃切迫説を疑問視、ニミッツがペルシャ湾に待機していることの抑止効果についても懐疑的だという。

 こうした対立の中、事実上解任されたエスパー国防長官に代わってトップに座ったミラー国防長官代行がニミッツの撤収を命令した。ニューヨーク・タイムズが当局者らの発言として報じるところによると、今回の決定は「任期切れの迫るトランプ大統領が危機に巻き込まれるのを回避するべく、緊張緩和のシグナルをイラン側に送るため」としている。

トランプ大統領は関与したのか?

 しかし、撤収はマッケンジー中央軍司令官ら軍部の反対を押し切って行われた決定で、ミリー統合参謀本部議長も驚がくしたとされる。トランプ大統領の指示によるものか否かは明らかではないが、国防総省内の対立を反映したものであるのは確かだろう。大統領は12月31日に冬休みを1日切り上げてワシントンに急きょ戻っており、撤収決定に関与した可能性もある。

 大統領が関与していたとして、今回のニミッツ撤収はイランに対する「最大の圧力作戦」を続けているトランプ政権の戦略とは相反する。なぜ、大統領は対イラン圧力を弱めるような決定を承認したのか。大きな謎だ。このため大統領が任期切れ直前にイランとの劇的な取引を画策しているなどとの憶測も飛び交っている。

 米軍はニミッツの撤収による軍事力の穴を埋めるため、新たに攻撃機や空中給油機をサウジアラビアなどペルシャ湾諸国に派遣した。トランプ大統領はエスパー氏を解任した際、国防総省の諮問機関「国防事業理事会」などに自分の息のかかったルワンドウスキ元選対本部長ら十数人を送り込んだ。このため省内の意見の対立が目立ち始めている。


新着記事

»もっと見る