2024年12月10日(火)

WEDGE REPORT

2021年1月8日

 トランプ大統領は1月7日、動画による短い声明で「20日には新政権ができる。円滑な政権移行に傾注する」と述べ、これまで拒否し続けてきた“敗北宣言”に踏み切った。大統領の扇動で支持者らが議会を占拠した事件では、罷免や弾劾の可能性が取り沙汰されており、バイデン次期大統領の勝利を認めることで、政治的な苦境からの「逃げ切り」と「保身」を図ったと見られている。

トランプ米大統領 円滑な政権移行を約束 事実上の敗北宣言 (ビデオ画像、Donald J. Trump via Twitter/ロイター/アフロ)

「議会史に残る暗黒の日」とペンス副大統領

 6日に発生したトランプ氏支持者らの議会占拠については、「米英戦争時の1814年8月に英軍が議会に侵入して以来の暴挙」(米連邦議員)といわれるほどの衝撃だった。議会は米民主主義の象徴であり、それだけに社会全体からの反発も強い。

 バイデン氏は「民主主義や法の支配への攻撃だ。議会に侵入した者たちはデモ隊ではなく、反乱者、テロリストだ」と述べ、「トランプ大統領が煽った」と非難した。米議会で7日未明、バイデン氏の大統領選勝利を最終的に宣言したペンス副大統領も「暴力は勝利しない。議会史上に残る暗黒の日だ」と暗に大統領を批判した。大統領との“決別”が決定的になったとの見方が強い。

 米メディアによると、今回の事件に対しては、民主党だけではなく、共和党からも厳しい声が上がっている。かねてより大統領に批判的なロムニー上院議員が「事件は大統領により扇動された反乱だ」と非難したのを始め、「これはクーデター未遂だ。大統領のレガシーは酷いものになるだろう」(キンジンガー下院議員)、「分断を煽ってきたトランプ氏の醜悪なやり方の結果だ」(サス上院議員)といった具合だ。

 暴徒と化したトランプ支持者らによる議会襲撃はバイデン氏の勝利への異議申し立ての審議中に発生したが、この事件でバイデン氏当選に反対を表明していた共和党のロジャーズ下院議員ら何人かが反対を取りやめ、バイデン氏の当選に賛同する側に回った。それでもなお、共和党の140人弱の下院議員がバイデン氏当選に反対を表明したのは同党がいかに“トランプ党化”しているかを浮き彫りにしたものだろう。

 議会が「民主主義の砦」という誇りを持っている民主党のペロシ下院議長は怒り心頭だ。議長は上院のシューマー上院院内総務と7日会見し、憲法25条を発動してトランプ大統領を罷免するようペンス副大統領に呼び掛けた。議長は大統領の任期が13日しかないことを指摘しながら、「残りの日々がホラー・ショーになりかねない」と危機感を露わにし、シューマー氏も「トランプ氏は一日も大統領にとどまるべきではない」と述べた。

 憲法25条の規定は「大統領が職務不能と判断された場合、副大統領と閣僚の過半数が議会にその旨通告し、罷免することができる」というもの。大統領が異議を申し立てた場合は、上下両院のそれぞれ3分の2以上の賛成で大統領の罷免を決めることが可能だ。ニューヨーク・タイムズはペンス副大統領が拒否したようだと伝えている。

 ペロシ議長はペンス氏が応じなければ、大統領の弾劾を検討するとして、ウクライナ疑惑での弾劾に続き、2回目の弾劾手続きを進める意向も示した。だが、実際問題としては残りの任期がわずかな中で、弾劾に持ち込むのは事実上不可能。大統領に圧力を掛けるための政治的な動きと見られている。

 トランプ氏を見限っているのは連邦議員だけではない。政権の閣僚や幹部も批判的な姿勢を強めている。チャオ運輸長官は議会占拠を「看過できない」として11日付で辞任すると表明。デボス教育長官も7日、この問題で辞表を提出した。ポッティンジャー大統領次席補佐官、マシューズ副報道官らの辞任も伝えられている。7日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは社説で、トランプ氏に辞任を要求した。


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