2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2021年1月13日

「愛国者」か「臆病者」かと迫る大統領

 ペンス氏のショート首席補佐官らは著名な憲法学者らに意見を聞き、憲法上、議長役の副大統領は手続き的役割を果たすだけで、選挙結果を覆す権限がないことを確認。ペンス氏は憲法に記された義務を果たすか、ボスであるトランプ氏の要求に応じるか悩みながらも、副大統領にはそうした法的な権限がないとの見解を大統領に説明し、要求を断った。

 こうした中、ペンス氏にトランプ氏の勝利を宣言するよう求めた連邦下院議員による訴訟も起きた。ペンス氏らは「この訴訟の背後にトランプ氏が介在していたと確信を深めている」(ワシントン・ポスト)という。トランプ氏はある時は、大統領執務室に保守派の憲法学者を招き「ペンス氏に選挙結果を覆す権限がある」と主張させ、同席していたペンス氏を丸め込もうとした。

 ニューヨーク・タイムズによると、議会での選挙人投票の確定が行われる6日の朝、トランプ大統領はペンス氏の自宅にまで電話し、「マイク、愛国者として歴史に名を残すのか、それとも臆病者として名をとどめるのか」と土壇場で翻意を迫った。しかし、ペンス氏はこれを拒否、あくまでもバイデン氏勝利の認定を変えない考えを伝えた。

 激怒した大統領はその日の午後、ホワイトハウス前で支持者らに「死ぬ気で戦え」などと演説、抗議のため議会へ行進するよう扇動した。この演説の直後、大統領はツイッターで「ペンスは国と憲法を守るためになすべきことをする勇気を持っていない」と非難した。これを受け、過激な支持者らは「ペンスはどこにいる」「ペンスを吊るせ」と叫んで議会に乱入した。

 ペンス氏は暴徒の襲撃の際、妻子とともに地下に非難したが、議会脱出を促す警護関係者の求めを拒み、議事堂内に残った。同氏はそこから、議会指導者や国防総省幹部らに連絡、暴徒を一掃するため州兵を動員させた。トランプ氏はこの時、襲撃のもようを伝えるテレビ中継に夢中になっていた。ペンス氏の安否の確認などは一切行っていない。

 ニューヨーク・タイムズによると、ある上院議員は後に、ペンス氏がこれほど怒ったのは見たことがないとし、尽くしてきた大統領に裏切られたと感じていたのではないか、と述懐している。

 議会から脱出した共和党上院のマコネル院内総務はペンス氏の行動を称える一方、トランプ大統領に対しては激怒。事件後、大統領からの電話にも出ないでいるという。ペンス氏は大統領と顔を合わせないよう7日はホワイトハウスに出向かず、8日に副大統領室でスタッフとのお別れ会に出席、最後に4分間もスタンディングオベーションが続いたという。

 ペンス氏はお別れ会の場で、事件後の7日未明に議会から離れる際、首席補佐官が送ってきたという聖書の一説のメッセージを紹介した。そこには「私は見事に戦った。戦いを終えた。信念を貫き通した」と記されてあったという。

  
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