中東を読み解く

2021年3月3日

»著者プロフィール

 バイデン米政権がイラン核合意復帰に向けた動きを見せる中、イスラエルとサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンの湾岸諸国が米国抜きの「中東版NATO」創設を模索し始めた。これら4カ国はいずれも米国の強力な同盟国。米国によるカショギ氏殺害事件の報告書公表で、米国とサウジ関係も悪化、“反バイデン”の現象が浮上してきた。

(Oleksii Liskonih/gettyimages)

ユダヤ人会議議長がサウジ紙で提唱

 エルサレム・ポスト紙などによると、4カ国による新しい軍事同盟結成の話が明るみに出たのは先月、「世界ユダヤ人会議」のロナルド・ローダー議長がサウジの英字紙「アラブニュース」に寄稿した一文だった。議長は中東がイランの脅威やコロナ禍に直面していることを指摘し、自主防衛の重要性を訴えた。

 事実上、米国の軍事的な傘から離脱して「中東版NATO」の創設を提唱したもので、「アラブ諸国はイスラエルをイランに対抗する唯一の信頼できる同盟国と見ている」と言及、イスラエルとアラブ世界の関係強化を強調した。議長のコメントは当然のことながら、イスラエル政府の思惑を反映してのことだったのは間違いないところだろう。

 もう一つ注目したいのは議長が寄稿した「アラブニュース」についてだ。同紙はサルマン国王の息子で、同国を牛耳るムハンマド皇太子の兄弟のツルキ王子が所有しており、サウジ政府のマウスピースだ。わざわざ寄稿させた背景にはムハンマド皇太子の意向が働いていたと見るのが普通だ。

 この記事が出た後の1月25日、イスラエルのテレビは4カ国が米国を外した軍事同盟結成を検討していると伝えた。イスラエル首相府当局者は確認を避けながら「中東のパートナーとの関係強化には関心がある」とコメント。エルサレム・ポストによると、首相府筋は4カ国が非公式に会談したことを認め、共通の敵であるイランの脅威を協議したことを明らかにした。

 イスラエルは長らくアラブ諸国の多くと敵対してきたが、昨年、トランプ前政権の仲介で、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコと国交樹立で合意した。アラブの盟主であるサウジアラビアとは国交がないが、昨年11月、ネタニヤフ首相がサウジを極秘訪問し、ムハンマド皇太子と会談したと報じられた。

 イスラエルとサウジアラビアが急速に接近しているのは前政権とは違って両国と距離を取るバイデン政権への反発が背景にある。バイデン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相とは就任後1カ月近くたってからやっと会談するなど冷淡さが目立っている。サウジに対しても、関係を「再調整する」とし、ベタベタだったサウジ王宮とホワイトハウスには隙間風が吹いている。

 4カ国の軍事同盟の秘密協議はトランプ前政権との間で培われた「米国との親密な構図」が崩壊したことに対する一つの反作用だろう。米国抜きの「中東版NATO」の結成に現実味は乏しい。むしろ、そうした動きを見せることで、「イラン核合意への復帰は容認しないし、自分たちを軽視することは許さなさい」というメッセージを送ることに狙いがあると言えるのではないか。

関連記事

新着記事

»もっと見る