2024年4月27日(土)

中東を読み解く

2021年3月3日

バイデン政権の限界

 バイデン氏は大統領選期間中からサウジを世界の「のけ者」と呼び、大統領に当選したあかつきには両国の関係を見直すと公約してきた。サウジ嫌いの理由はトランプ氏が独裁者のムハンマド皇太子と親密だったことに加え、皇太子の人権弾圧、イエメン戦争への介入問題などがある。

 ムハンマド皇太子はこうしたバイデン大統領の考えを受け、女性の運転を要求したことなどから拘束していた活動家を釈放し、イエメンへの攻撃を差し控えるなどの措置を取って「バイデン氏に許しを請うた」(米紙)。だが、バイデン政権はイエメン戦争の終結のためとして、サウジへの武器売却を凍結、サウジの戦争相手であるイエメンの反政府勢力フーシ派のテロ組織指定を解除した。

 極めつけは、2018年にイスタンブールで起きた反政府ジャーナリスト、カショギ氏殺害事件で、「ムハンマド皇太子が殺害を承認していた」とする米情報機関の報告書の公表に踏み切ったことだ。報告書の内容は事件直後に報道されてはいたが「皇太子がサウジの治安と情報機関を完全に支配しており、同国当局者が皇太子の承認なしにこの種の作戦を実行することはほとんどあり得ない」と断じ、事件に関与した元高官らに追加制裁を科し、76人への査証発給制限を発表した。

 しかし、皇太子の責任を認めながらも、皇太子には制裁などの措置を講じず、「バイデン氏は殺人者と握手した」(米紙)「犯罪を犯しても逃げられるというメッセージを世界の独裁者に送った」(連邦議員)などと批判が噴出。ブリンケン国務長官は「サウジとの関係は個人との関係よりも大事だ」と弁護し、サキ大統領報道官も「通常は同盟国の指導者に制裁を科さない」と決定を擁護した。

 だが、バイデン政権は前政権とは異なり、外交のプロが多く、なによりも米国の長期的な国益をおもんばかり、思い切った政策に踏み切れない弱みがある。「バイデン氏のこれが限界ではないか」(アナリスト)という声も多い。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は3月2日、カショギ氏殺害などで皇太子ら5人をドイツの検察に告発したが、今後もサウジに対する国際的な不信感は収まりそうもない。

 当のムハンマド皇太子については、今回の事件に反省して国内外の反政府派への弾圧を止めると見る向きはほとんどいない。すでに最近、カナダ在住の反政府サウジアラビア人が行方不明になり、数日後にサウジ国内に姿を現した事件も起きている。サウジ当局者によって拉致された疑いも出ており、反政府ネットワークが漏れるのではないかとの懸念が広がっている。

  
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