内戦の続くアフガニスタンの和平をめぐる動きが慌ただしくなってきた。駐留米軍の全面撤退期限を前に、バイデン米政権がアフガン政府と反政府勢力タリバンによる「暫定政権」樹立や、周辺国を巻き込んだ和平会議などの新提案を打ち出したためだ。だが、米国のイニシアチブがうまく運ぶ見通しは暗く、バイデン大統領は撤退延期を迫られることになりそうだ。
タリバンの冬季攻勢
トランプ政権とタリバンは昨年2月、戦闘の停止で合意した。その内容は駐留米軍が今年5月1日までに全面撤退するのと引き換えに、タリバンは米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍への攻撃を控え、国際テロ組織アルカイダなどとの関係を絶つというものだ。しかし、タリバンはアフガン軍との戦闘は対象外として、両者間の戦闘は続いている。
トランプ前大統領がガニ・アフガン政権を蚊帳の外に置いたまま、タリバンとの和平合意を進めた背景には、大統領選挙のため「有権者に公約を果たしことを誇示する」という政治的思惑があった。同氏にとって、2400人を超える米兵が犠牲となり、2兆ドル(200兆円)もの莫大な戦費を投じた最長の戦争に、終止符を打つとの姿勢を明確にすることが必要だったわけだ。
米軍は合意に基づき、順次撤退を開始、現在までに昨年の5分の1の2500人にまで削減し、米軍機の政府軍支援も減った。一方で、カタールのドーハで始まった肝心の内戦終結の和平交渉は基本的に、ガニ政権とタリバン代表に委ねられた。しかし、交渉は将来の国家体制などをめぐりすぐに対立、暗礁に乗り上げた。
タリバンは和平交渉を尻目に政府軍に対する攻撃を激化させ、南部や北部などで支配地を拡大し、国土の半分以上を事実上、占領するまでになった。特にここ数カ月、南部のカンダハル州や北部のクンドゥズ州などで冬季攻勢を強め、同国第2の都市カンダハルにはここ10年で最も接近している。米ワシントン・ポストによると、昨年暮れにはカンダハルのアフガン軍の検問所約200カ所がこの攻勢により放棄されたという。
同紙によると、カンダハル近郊の戦闘で負傷した兵士らが毎週、100人から200人出ている。タリバンは占領地に厳格なイスラムの規律や夜間外出禁止令を敷き、住民らのスマホを破壊し、音楽も禁止、政府軍の攻撃に備えて住宅地にトンネルを張り巡らし、道路に爆弾を仕掛けている。クンドゥズ州でもカブールに続く高速道路がタリバンに占領され、交通に大きな支障が出ている。
国連によると、内戦の犠牲者も7年連続3000人を上回るなどタリバンと米国の和平合意後も戦闘が沈静化する兆しはない。米専門家グループが2月に公表した米議会報告書は、米軍がアフガンから全面撤退すれば、国家崩壊を招いて内戦が激化すると警告しており、バイデン大統領は政権発足直後から、撤退延期などの選択肢の検討を始めていた。