“ムーンショット”
こうした中でバイデン政権が2月末、ガニ政権とタリバンの権力共有に基づく「暫定政権」の樹立を骨子とする新提案を双方に示した。提案はブリンケン国務長官の書簡の形で送られ、その後、米国のハリルザド・アフガン和平担当特使がタリバン側とガニ大統領に提案の中身を説明した。
提案によると、ガニ政権とタリバンが話し合いで「暫定政権」を樹立、新憲法を策定した後、選挙を行って新政権を発足させるというシナリオだ。ワシントン・ポストによると、一部の米当局者はこの提案を、そのアプローチの「高い大望」にちなみ“ムーンショット”(月ロケット打ち上げ)と呼んでいるが、暗礁に乗り上げている和平交渉を一気に加速させて突破口を開く狙いがあり、バイデン政権は数週間以内の「暫定政権」樹立を目論んでいる。
「暫定政権」指導者の在り方として、米提案は「大統領と数人の副大統領」ないしは「大統領と首相」という2つのオプションがあるとする一方、「暫定政権」の大統領らは将来の新政権には参画できないとしている。さらに提案は2つの新たな会議開催計画も盛り込んだ。
1つは周辺国を巻き込んだ和平会議の設置だ。国連主導の下、米国の他、アフガニスタン周辺のロシア、中国、パキスタン、イラン、インドが参加。恐らくはアフガンに軍を派遣しているNATOも参加することになると観測されている。バイデン政権としては、周辺国が保障する形でアフガン和平を達成したい狙いだが、そもそもアフガン戦争を仕掛けた米国の責任を転嫁するものとの批判を招きそうだ。会議の日程は暫定的に3月26日に設定されているという。
もう1つはカタールのドーハで行ってきた和平協議を4月にトルコで開催することを要請したことだ。トルコのチャブシオール外相はこれを受け、イスタンブールでの開催方針をすでに明らかにしている。これとは別にロシア外務省によると、モスクワで3月18日、ロシア、中国、米国、パキスタンの代表がアフガン和平に関して会合を開催、アフガン政府とタリバン代表も参加する予定。
だが、米提案に対し、当事者のガニ大統領は「選挙以外で政権が交代することはない」などと拒否。アフガン政府高官らも米国がタリバンに譲歩するよう、もっと圧力を掛けるべきだと反発している。タリバンのスポークスマンは「精査中」としているものの、全面的に賛成する空気はないようだ。
バイデン氏はオバマ政権の副大統領時代からアフガン駐留米軍の規模の縮小を主張してきたが、和平交渉が行き詰まる中、タリバンの攻勢で戦況も悪化。米紙によると、駐留米軍の「全面撤退延期やむなし」との判断に傾きつつあるようだ。今回の提案は行き詰った和平交渉に風穴をあけようという意欲的な取り組みだが、協議がさらに停滞し、内戦が一気に緊迫化する恐れもある。バイデン大統領は大きな政治的リスクを背負ったのかもしれない。
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